27:ギルドのランクをAにあげてからの事
それからアレイシアはギルドランクを上げるために、依頼を次々と受け始めた。討伐依頼を受けては、すぐに退治をする。それを繰り返す。『森の賢者』と呼ばれるこの世界最高峰の魔術師に魔術を習い、魔術を使う事を息をするかのようにこなすことが出来る。
討伐以外の依頼も受けてはいたが、一番効率よくランクを上げられるのは討伐依頼だったため討伐依頼を多く受けた。
そのうち、たった一人のエルフの少女が一気にギルドランクを上げていると世間では噂になっていた。降りかかる粉を振り払うために、ギルドランクを上げたために別の意味で注目を浴びていた。
まだ森から出てきて数か月ほどしか経っていないアレイシアなので、とりあえず権力があれば少しは楽だろうと思ってギルドランクを上げているだけであったが、アレイシアが一気にギルドランクを上げた事で別の騒動が起こるのではないかと、人間社会で暮らすエルフたちは警戒を強めていたのだが、アレイシア本人はのほほんとしていた。
「ベス、お待たせー。ギルドランクAに上げてきたよ。これで、色々楽だね」
「……え」
アレイシアはギルドランクをAに上げると、すぐにベストを迎えに行った。エルフたちの元でお世話になっていたベストは、アレイシアの言葉に驚いた声をあげる。
「アレイシアさん、もうAランク? 早い」
「私頑張ったもの」
「いや、普通頑張ってもそんな風には出来ないと思うんだけど」
「頑張れば出来るよ? ベスも時間かけてもいいから頑張ってランク上げようね」
「うん、上げたいけど、出来るかな?」
「出来る出来ないじゃなくてやるかやらないかだよ。頑張ろうね」
「うん」
アレイシアの言葉にベストはうなずくのであった。
Aランクになってから、アレイシアの名は有名になった。『魔女』と、そんな風に呼ばれた。それは否定的な意味では決してない。魔術を息をするかのように、発動させるという意味での、畏敬と尊敬を込めた呼び名。
それを知った時のアレイシアは少しだけ複雑な気持ちになった。今は『森の賢者』と呼ばれている自身の母親も、一時期『魔女』と呼ばれた次期があった。それも、悪い意味の『魔女』だ。噂をされ、大変だったのだと少しだけ聞いた事があった。
(私が、お母さんと同じ呼び名か)
と、それを知って何だかうれしくもあったし、でも母親の時の呼び名は悪い意味であったのも考えるとアレイシアは何とも言えない気持ちになったのだ。
ギルドランクAに一気に上がったのもあって、アレイシアは有名になった。アレイシアの弟子であるベストも、一生懸命に魔術を学び、人間にしては魔術の腕がそれなりの腕になってもきた。
アレイシアはベストとイチを連れて、色々な街を巡った。エルフたちはアレイシアに好意的であり、エルフの多い街でのアレイシアは快適な暮らしが出来た。それと正反対にエルフの少ない街だと不便が多かった。幾らアレイシアに魔術の腕があり、その実力を持ってギルドランクAに上り詰めたとはいえ、最短で上り詰めた事に疑問視するものももちろんいた。アレイシアがエルフたちに優遇されていると突っかかられる事もあったのだ。そういうときはアレイシアはイチやエルフたちにアドバイスされた通りに実力を持ってそれに反論した。
アレイシアは本当に両親や叔父に感謝した。エルフたちがここまで好意的なのはアレイシアがハイエルフであり、セイナの娘だからだ。セイナ達が築いた人生が、今のアレイシアを生きやすくしている。エルフたちが優しくしてくれるのはハイエルフであるからであって、アレイシアの力で彼らを味方につけたわけではない。
自分たちに好意的な彼らに対して何か返せる自分でありたいと、アレイシアは思った。だから、ベストとイチと共に様々な場所を回っていく中でエルフたちの力になろうと決めて、手を貸していった。
そうして過ごしているうちに住んでいた森を出てきて既に一年半経過していた。森の外の世界は、アレイシアにとって知らないものばかりで、アレイシアは毎日がわくわくしていた。
森には一度も帰っていなかった。そして、ギルドランクCにまで上がっているベストに対してアレイシアは自分がハイエルフであるという事は言えていなかった。
言ってもいいのではないかと、そんな風に考えていたけれどイチに止められ、中々言い出せなかった。ベストだってアレイシアが何かを隠している事はわかっているだろうが、アレイシアがハイエルフとは考えていないようだった。それもそうだろう。ハイエルフとは、この世に三人しかいないとされている存在なのだ。エルフたちはその存在を知っているが、それ以外には知られていないハイエルフ――それがアレイシアなのだから。
そして、いつベストに言えるだろうかと悶々としている日々の中で、アレイシアにハイエルフを信仰する宗教が接触してきた。