26:降りかかる粉を払うためにも
エルフが数多く存在するこの街は、アレイシアにとってどうしようもないほど過ごしやすい所だった。エルフという種族は、ハイエルフを崇拝している。だから、エルフはハイエルフに力を貸す。彼らにとってハイエルフという存在はそれだけ特別な存在である。
「んー、私エルフの皆の助けなしに何でも解決できるようにならなきゃ」
エルフたちがギルドの上層部に食い込んでいるから『銀の牙』の面倒な問題もすぐに解決する事が出来たが、自分の力でどうにか解決できるようになるべきだとアレイシアは考えた。そうしなければこれからが大変だ。どこの街にでもエルフが存在しているわけではないのだから。
『じゃあ、ギルドランクあげたら?』
「そんな簡単に上げれるかな?」
『んー、大丈夫だと思うよー? ちょっと強い魔物をぉ、こう、一ひねりすれば、いいだけだよー?』
ベッドの上でどうにかしたいなと考えているアレイシアにイチは軽い調子で言った。一般的に考えて、ギルドのランクというものはそんなに簡単にあげられるものでは決してないのだが、『森の賢者』から教えを受けているアレイシアの実力をイチはよく知っている。知った上でギルドランクをすぐに上げる事は簡単だと思うのだ。
アレイシアはギルドに登録してから高位の依頼は受けていない。ランクを上げる事を急いでいたわけでもなく、どんだけ雑用にしか見えない依頼であってもアウグスティヌスの森から出た事がないアレイシアからしてみれば新鮮で楽しいものだった。
それにベストという、か弱い『人間』の子を弟子に取ったのもあってベストとこなせる依頼ばかり受けていたというのもある。
「ランク上げたら色々やりやすい?」
『うん。やりやすいよー。あの馬鹿なハーフみたいなのもぉ、世の中いるから、上げた方がいいよぉー?』
「んー、でもそういう依頼こなすならベストはどうしよう?」
『この街のエルフにぃ、預ければいいと思うよー?』
エルフたちもハイエルフであるアレイシアが弟子と認定している人間の子供にどうこうしようなどとは思わないだろう。万が一、何かあればハイエルフの機嫌を損ねてしまう事になるのだから、ベストの面倒をよく見てくれるはずだ。
そう考えて、アレイシアは、
「それもいいかもね」
と口にするのであった。
自分の力だけでどうにか厄介事を解決できるようになるべきだ。アレイシアは百年生きていて立派な大人なのだ。幾ら周りのエルフたちが親切だからといってエルフたちに負担をかけ続けることが良い事などとは思えない。エルフたちの親切に甘え続けては駄目なのだ。
「……どのくらい上げればいいかな?」
『とりあえず、あのハーフぐらいまで上げたらー?』
「ギルドランクAまで?」
『うん、そうそうー』
イチは楽しそうに声を上げている。
ギルドランクAに上がる事は本来なら難しい事なのだが、イチはアレイシアがそのランクに上がれないとは欠片も考えていないようだった。
そんなわけで、アレイシアはランクを上げる事にした。
「ベス、私、ギルドランク上げるために依頼受けるからそれまでこの街のエルフに面倒見てもらって」
「え」
突然、アレイシアが言った言葉にベストは驚いた顔をしていた。
「……ギルドランクを上げる?」
「うん。あのハーフエルフみたいなのに絡まれた時どうにかできるようにしておきたいから」
「……幾らアレイシアさんが魔術が得意でもそんなに簡単には上げられないんじゃ……」
「多分大丈夫だよ」
アレイシアは自分より長い時を生きているイチが大丈夫だと言っているのもあり、ランクを上げることに不安を感じていなかった。しかし、ベストからしてみれば、アレイシアがハイエルフであることも知らないため不安そうな顔をしていた。
本当にそんな軽い調子でギルドランクをあげようとして大丈夫なのだろうかという不安が表情に出ている。
「アレイシアさん、ギルドランク上げるのですか?」
周りで話を聞いていたエルフの一人が会話に加わってきた。
「そのつもりなの。どのくらいかかるかもわからないから、私がギルドランク上げる間皆にベストの事を頼みたいわ」
「アレイシアさんの弟子を預かるのでしたら喜んで」
「え、っと、皆さんはアレイシアさんがランク上げるの不安に思わないんですか」
「当たり前です。アレイシアさんなら最高ランクも余裕でしょう」
エルフたちは、ハイエルフであるアレイシアの事をちゃんと知っているのでそんな発言をする。エルフに驚くほどに慕われていて、そんな風に実力を認められているアレイシアにベストは驚いてばかりだ。
「私の事は心配しなくてもいいから。ベストはエルフの皆に色々習っていてね」
アレイシアはそう告げると、ギルドへと向かうのであった。
そしてギルドに居るエルフにどの依頼を受ければランクが上がるか聞くと、数個まとめて依頼を受諾する。そして依頼を完遂するために街から出ていくのであった。




