25:ハイエルフは、エルフたちにとって特別である。
アレイシアとベストはエルフが比較的多いこの街で、平穏に冒険者生活が出来ていた。
アレイシアの姿を見かけたエルフたちは、アレイシアに敬意をもって皆が話しかける。それにベストが相変わらず何か言いたそうな表情をしていたものの、アレイシアが言う気がないのを知っているからか聞いてくる事はなかった。
アレイシアのであったエルフたちは、皆が『銀の牙』の所業に怒り狂っていた。
誰もが「エルフの血を引きながらなんていう真似を」と怒っていた。
アレイシアは外の世界に出て、ハイエルフである両親とエルフの『守護者』である叔父さん、そしてエルフたちといった身内以外の存在とようやく接して、色々面白いなとか、大変だなとか沢山の感情を感じるのだ。
「私アウグスヌスの森では本当に大切に育てられてたんだねー」
『セイナ様は、身内には結構甘いからねぇ。エルフたちはハイエルフには逆らわないようにぃって、アキヒサが教育していたし、自分の祖先であるハイエルフに敬意をさぁ、持っているんだよぉー』
アウグスヌスの森は、平穏な場所だった。ハイエルフが住まう聖域。人が足を踏み入れる事を許されていない場所。そんな場所では喧噪も何もなくて、ただ穏やかだった。
「外の世界はよくわかんない『銀の牙』みたいな人たちもいるけど、沢山の事を知れて私は嬉しい」
『アレイシアが、楽しいならよかったぁ。でも、本当にぃ、大変ならー、セイナ様に報告するからねぇ』
「……うん。私もなるべく自分で解決したり、エルフたちの力を借りて解決したりしたいけどそれが難しい事ももしかしたらあるかもしれないんだよね。だってお父さんでさえ昔隷属の魔術具つけられてたって、言ってたよね」
『そうだよぉ。フランツはその当時はぁ、魔術に詳しくなくてそれでこうつけられたの』
「私も、そういうのないように気を付ける」
『万が一つけられても、セイナ様がぁ、実力行使するから、大丈夫だよ?』
そうイチに言われたものの、アレイシアはなるべくお母さんの力は狩りたくないなぁとそんな風に思って、頑張ろうと決意するのであった。
さて、エルフがそれなりの数暮らしているこの街だが、ハイエルフを信仰している宗教の拠点はここにはない。以外に思うかもしれないが、ハイエルフを信仰している宗教団体というのは、エルフは信仰しない。信仰しているのは、昔『森の賢者』セイナの圧倒的な力を目にした人間たちである。
何処までも圧倒的で手の届かない力を持つ神のようにセイナの事をあがめているのが彼らであって、彼らにとってハイエルフというのは崇拝の対象でしかない。エルフたちはまだハイエルフを現実として知っており、ハイエルフを神ではなく祖先として特別な思いを抱いているというか、また別なのだ。
アレイシアは彼らの事を知れば知るほどかかわりたくないなと思って仕方がない。アレイシアの事がハイエルフだとばれたらどのような行動に出るかも分からないからだ。
「アレイシアさん、此処は……」
「ああ、そこはね」
アレイシアは宿屋の食事処でベストに魔術について教えていた。さりげなく周りにいるエルフたちはハイエルフであるアレイシアの教える魔術だと聞き耳を立てている。その様子にアレイシアは苦笑を浮かべてしまう。
ベストは人間で、魔力量で寿命な左右するこの世界において平均的な魔力しか持ち合わせていない。アレイシアの母親であるセイナは人間の平均の魔力しか持ち合わせていなくても使い方が色々あるといっていた。
「魔術は――」
魔術は自分の魔力で魔力公式を通して、魔術という術を実現させることだ。世界に広まっている魔術は、形式ばっていて、自由度がないけれどアレイシアがセイナに教わっている魔術は何処までも自由だ。
『アレイシア、魔術は自分のやりたいことを実現させるための術よ。これでなければダメなんて固定概念を人間の魔術師たちは抱いているから成長も進歩もしないけど、魔術は何時だって自分の手で進化出来るものよ。面白いでしょう?』とそんな風にセイナは笑っていた。
母親に魔術について習っただけの、魔術について一人前とは自分では思えないようなアレイシアがこうして誰かに魔術を教えるというのはアレイシアにとって不思議で、だけど新鮮味のある楽しい事である。
そうして魔術を教えていれば、
「アレイシアさん、『銀の牙』についての事ききましたか?」
と、その場にやってきたエルフがいった。
「どうかしたの?」
「ギルドの上層部も、上級ランクのパーティーも、エルフの里の出身者は当然の事ですが怒り狂い、『銀の牙』への勧告を促しました。今回のように下位ランク者に横暴なふるまいをすることに対してが表向きですが、それはもう皆怒っていたようです」
「あはは、そうなんだ」
「はい。エルフの血が流れておきながら、アレイシアさんをないがしろにするなんて許せませんから。それにあのアーラとかいう魔術師は誰よりも凄腕の魔術師だと言い張っていましたがあくまで人間の枠組みでそれなりに魔術が使えるだけでしたから、エルフたちと魔術比べをさせ、自信喪失させました。ノランとかいう糞ガキもこれでおとなしいので安心してくださいませ」
「ごめんね、手間かけさせて。私だけじゃ上手く出来ないからって皆の力を借りてしまって」
「いえ、いいのですよ。私たちエルフはアレイシアさんのためなら力を貸す事は寧ろご褒美ですので」
周りに居るエルフたちはその言葉に同意して、アレイシアに口々に声をかけるのであった。




