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24:隠し事をするのは少し嫌だけど。

 シントンスの街のギルドマスターがエルフであり、受付嬢や宿屋にもエルフが居たという事で『銀の牙』に目をつけられたままのものの、宿に泊まる事が出来た。

 寧ろエルフが経営する宿であり、従業員の中にもエルフがおり、アレイシアは快く受け入れられた。もちろん、『銀の牙』に目をつけられているという事で、人間の従業員は眉を潜めるものもいたが、エルフたちからしてみればギルドランクAのパーティーよりもアレイシアの母親のほうが大事なのである。

 ハイエルフはそれだけエルフたちにとって特別な存在であり、無視できない存在だ。

 宿は、アレイシアは一部屋でいいといったのだが、「アレイシアさんと同じ部屋には出来ません」と二部屋取らされた。エルフたちからしてみれば、至高のハイエルフの一人を異性と同じ部屋で過ごさせるという真似はしたくなかったようだ。

 「………アレイシア、さんは」

 「んー、何?」

 「いや、なんでもない」

 自分の部屋に向かうベストが何を聞きたいのかアレイシアはわかっていたが、はぐらかした。

 恐らくエルフたちの態度がどうしてなのかを聞きたいのだろうとは理解出来る。

 母親がエルフの中で有名な事はいってある。だけど、エルフたちの態度は、本当にアレイシアの事を特別扱いしているのだ。だからこそ、実際アレイシアがエルフたちの中でどういう立場なのかを気にしているのだろうとアレイシアは考える。

 部屋の中に、アレイシアとイチが居る。

 「ねぇ、イチ、ハイエルフの事はやっぱり言わない方がいい?」

 『当たり前だよぉ』

 アレイシアがベッドに寝転がりながら聞いた言葉に、イチは答える。

 気まぐれに弟子をとってみた。弟子なのだから色々教えようと教えている。その中でアレイシアはベストの事がそれなりに好きになっていた。気に入っていた。素直に自分の言う事を聞いて、一生懸命強くなろうとしていて。

 だけど、ベストは『人間』である。

 『人間』について、散々注意されてきた。迫害してきた種族。両親の事を利用して、大変な目に合わせてきた種族。尤も注意しなければならないと、母親が何度も告げていた種族。

 アレイシアが森の外に出る事に対して、アレイシアの母親であるセイナは一番『人間』について注意していた。

 『人間』に対する警戒心がアレイシアの母親は強かった。それは、『人間』は他の種族を迫害してきた種族で、それ以外は迫害されてきた種族であったからである。

 その迫害の歴史が終わった後にアレイシアは生まれ、アウグスヌスの森で他の種族と関わり合いもないままにただ生きていた。

 ハイエルフの両親と、そして時々エルフたちと……ただのんびりと生きていた。

 散々言い聞かされてきても、そこまで心配しなくていいのではないかと思うのは迫害の時代を生きてこなかったからだ。

 「……イチは、大丈夫だと思うのだけど。第一、たった一人が私をハイエルフだって知ったところでどうもならないんじゃないかな」

 『考え方が甘いなぁ……。今は大丈夫でもぉ、未来はどうかもわからないでしょー? 今ねぇ、アレイシアがぁ、告げて大丈夫でも、数十年後とかにはぁ、それを後悔するかもじゃんか』

 「たった数十年で、そんな変わるかな?」

 『アレイシアにとっては、たったでもぉ……『人間』にとっては長い数十年なんだよぉ?』

 『人間』にとっての数十年と、ハイエルフにとっての数十年は全然違うものだ。それを頭では理解していても、『人間』とようやくかかわりだしたばかりのアレイシアはそれをいまいち実感できていない。

 アレイシアの今までの閉じられた世界の中では、変わらないものばかりだった。周りの人々は変化をしない。両親は老いる事を知らないハイエルフ。寿命が幾ら長いかもわからないハイエルフ。そして自身も、そういう存在。

 だからこそ、ぴんと来ない。

 数十年で、人が変わるという事も。自分の状況がたった数十年で変わる事も。

 変化のない日常を謳歌してきたからこそ、アレイシアは実感できない。

 『とりあえずね、アレイシア、まだ駄目だよ。出会ってまだそんなに経っていない『人間』を、信用しちゃ駄目だよぉ』

 「イチは、本当嫌いだね」

 『当たり前だよぉ、セイナ様大変だったもん』

 そういってイチは、アレイシアに駄目だよともう一度告げた。

 アレイシアは、隠し事をすることにむずむずしていた。ハイエルフであることが露見したら、アレイシアの外の世界を見て回るという目標の弊害になることも散々言われてきたし、ハイエルフであるからこそ利用しようとするものもいるとも言い聞かされてきた。だけど……、ベストにくらい言ってもいいのではないかとやはりアレイシアは考えてしまうのだ。

 でも、そういってもイチは頷かない事もわかっていたので、アレイシアはもやもやしながらもイチの言葉に従うのだった。





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