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19.ベストに魔術を教える。

 アレイシアとベストの二人組のコンビはコントスの街の中で少しずつ有名になっていた。それも無理もない事である。

 片や美しいエルフの少女、片や頼りのなさそうな少年。

 そんなコンビが珍しかったというのももちろんある。もちろん、それだけではない。アレイシアは次々とDランクの依頼をこなしていき、凄腕の魔術師であるという事が知れ渡るようになっていた。

 アレイシアは勧誘を全てはねのけ、弟子になりたいという存在にも「弟子は一人で十分」といって断っていた。

 アレイシアはハイエルフであり、世界最高峰の魔術師を母に持つ。

 つい最近までアウグスヌスの森以外の世界を知らなかった彼女は酷く非常識である。常識というものがいまいちわかっていない。

 正直アレイシアにとってはDランクの依頼は簡単にこなせるものであった。ベストが戦うための訓練として適当に討伐依頼や採集依頼を受けていたというだけである。

 ちなみに、コントスの街ではアレイシアはエルフと遭遇していなかった。もしこの街にエルフが居たのならば、ヒレンのような態度をしたであろう。

 ハイエルフとは、エルフたちにとってはそれはもう特別な存在である。というか、エルフたちだけではなく、世界にとっても特別な存在である。

 希少であるし、触れてはならないそんな存在とされている。

 アレイシアの母親であるセイナがやらかしたためだ。人嫌いで有名なハイエルフはエルフたちとはかろうじて交流を持っているものの、ほかの種族とは断絶状態である。まさか、誰もハイエルフの一人――それも『森の賢者』の正真正銘の娘がこんな場所にいるなど考えていない。

 「うーん、わかんない?」

 「……ごめん、アレイシアさん」

 ベストはアレイシアに魔術を習っていた。

 この魔力量で寿命が決まる世界で普通の人間であるベストはもちろん魔力総量は低い。人間として平均的だろうか。ただ、魔力の量が少ないとはいえ、魔術を使えるぐらいには平均的にベストは魔力を持っていた。

 「魔術書は……買ったけどとりあえず無視していいから」

 人間に魔術を教えるならそれ用の教科書を買ったほうがいいかもしれないと魔術書を一応買ってみたアレイシア。だが、その魔術は正直、アレイシアの知る魔術ではない。

 アレイシアは『森の賢者』であるセイナに直接魔術を習い、一般的とは言い難い学び方をしてきた。

 そんなアレイシアにとって、人間の町で打ってある一般的な魔術書というのはよくわからないものである。

 そういえば母親が今の魔術は昔のまま発展をあまりしていないといっていたのをアレイシアは思い出す。マニュアル化してしまった魔術。ただ詠唱を唱えるといったそういうことを重視している魔術。

 セイナは常に発展を望んでいた。

 魔術の研究が好きで、ひたすらに魔術を追求していた。

 誰よりも魔術を理解し、誰よりも魔術を行使してきた存在。それが、アレイシアの母親。

 「……アレイシアさんって」

 「ん?」

 「普通じゃないよね。エルフだからって、わけでもなさそうだし…」

 探るように、アレイシアはなんなのだろうとアレイシアを見つめるベスト。

 聞きたそうな視線の意味はわかっているけれど、いくら弟子にしたとはいえまだであってまもない存在に自身がハイエルフであることを告げる気はアレイシアにはなかった。

 「ベスがね、よい子だってもっとわかったら教えてあげる。それより、魔術よ、魔術。ベスはまだ魔術を構築することもできていないから……。魔術の公式をただ覚えるだけではだめなのよ。ここにこれを覚えれば君も魔術を使えるとか書いてあるけど、覚えるだけならバカでもできるわ」

 覚えるだけなんてバカらしいとアレイシアは思う。魔術は覚えるだけではなく、その中身を理解してこそきちんと構築できるのだ、とそんな風にセイナに教わっているから。

 魔術を理解しているからこそアレイシアは息をするように魔術を構築できる。

 ただ覚えるだけというのは、そもそも魔術の力を存分に発揮できない。魔術は術者の思い描いた現象を起こすことができる奇跡である。術者によって異なる魔術をいくらでも生み出すことができる。そんな奇跡の力なのだ。

 だというのに、ただ言われたままに詠唱し、ただ言われたままに魔術を行使するというのはもったいないとしかアレイシアには思えない。

 セイナがそれだけ魔術を研究できたのは、不老ともいえる寿命を持っているからである。だから寿命の短い人間にそれを求めるのは間違いかもしれないが、変化を求めず、ただ既存の魔術に満足しているのはアレイシアには理解できない。

 結局のところ、アレイシアはセイナほど魔術を追求しているわけではないものの、セイナの娘なのだ。魔術の追求に対する関心は少なからず存在しているのだ。

 その事実を理解して、アレイシアは私はお母さんの子供だなとなんだか笑みがこぼれる。

 「…んー、難しいってアレイシアさん、何笑っているの?」

 「お母さんのことを考えていただけよ。それよりね、ベスこれは――」

 そうしてアレイシアはベストに魔術について教えていく。




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