18.ギルドに向かう。
街を探検した翌日は、コントスのギルドへと向かうことになった。
ハイエルフとしてアウグスヌスの森で暮らしている分には、世界におけるお金というものは必要がない。セイナは本を読むことがあったため、エルフからそれらを手に入れていたが、アレイシアはこうして外に出てお金って重要なんだなと改めて感じる。
お金がなければ、世の中で集団の中で生活していくことは難しい。
世界を見る。
そんなアレイシアの目標をかなえるためにはお金が必要である。それらを稼ぐために、ギルドに向かう。
ギルドの扉を開ける。
コントスのギルドはシュノサイドのギルドに比べて、どちらかというと柄が悪かった。酒場がすぐ隣にあって、酔っぱらった冒険者たちが見られる。
彼らはアレイシアとベストの姿を見て、笑っている。
エルフの美しい少女と、頼りなさそうな少年。二人はそうとしか見えない。若いエルフというのはそれなりに魔術は使えるだろうが、あんな頼りなさそうな少年と一緒に過ごしているなど力を発揮できないだろうとでも思っているのかもしれない。
シュノサイドでは受付嬢がエルフであるヒレンであったがために、何もトラブルは起きずに過ごすことができたという幸運があるのだが、ギルドに訪れたのが二度目であるアレイシアには現状なぜそこまで見られているのかわかっていない。
アレイシアはハイエルフなのを、エルフに擬態している。もし、その白銀の美しい髪をさらせば間違いなくハイエルフとして騒がれてしまう。世間に一度も出たことのないアレイシアの存在を、世界は知らないのだから。
ベストは冒険者たちに注目されて不安そうな顔をしているが、アレイシアは一切そんな表情は見せない。何よりこの世界で最も恐ろしい存在は自分の母親であると思っているからというのもある。
「ベス、いくよ」
「う、うん」
ベストはアレイシアがひるまずに進んでいくのに、ついていく。
この町の受付嬢は人間である。
人間の女性は、アレイシアとベストに向かって笑いかけた。
「何かご依頼でしょうか?」
「いえ、私たちは受ける方よ。しばらくこの街にいるからちょっと見に来たの」
「子供だけで?」
「私はエルフで、子供じゃないわ。それに私もベスも冒険者だもの。問題ないわ」
「……後ろの少年もですか?」
「私はね。ベスは人間よ」
エルフであるアレイシアは年齢不詳なのでともかく、ベストは明らかに人間である。人間のまだ、子供の少年が冒険者というのは驚きだったのだろう。
生まれ育った町で子供が冒険者の真似事をするというのはまだある話だが、街と街を移動していく、危険な旅を目の前の少女と少年がするというのは驚くのも仕方がない。
アレイシアは『森の賢者』と呼ばれる最高峰の魔術師に育てられ一流の魔術を使いこなす。プラスして接近戦もできた方が良いという教えの元、学んできた。だからこそ両方できるが、基本的にエルフというのは魔術師のほうが多い。魔術も接近戦もできるものは少ない。
エルフは魔術師として冒険者の間で重宝されるが、それでもそれは接近戦を携わる仲間がいてこそ戦えるといった面もある。
エルフの少女と、戦えるかもわからないような少年。
そんな二人組というのは不思議なものであった。
「そう、なのですか」
「ええ。どんな依頼があるか見に来たの」
アレイシアは受付嬢の困惑の意味もわからないため、そう言い放つ。
そんなアレイシアに近づく男たちがいる。
「よう、姉ちゃん。エルフってことは魔術師なんだろ? そんなひ弱な少年とじゃ冒険なんてできねぇだろ。俺らのところに来ないか?」
柄の悪い男数名である。顔が赤いのは酔っぱらっているのだろう。
「ん? 私は魔術も剣も使えるよ。ベストを連れてでも冒険できるもの」
にやにやした目でアレイシアの体を嘗め回すように見ているが、アレイシアはその意味には気づいていないようだ。
『アレイシアー、そいつらセクハラしたいーっていう人たちだからね!』
アレイシアの隣で浮いているイチはそういってアレイシアに注意を促す。
「がははっ、姉ちゃんがいくら魔術が使えようともそんな足手まといがいたらどうしようもねぇだろ」
「ううん、問題ないわ。じゃあ、私たちは依頼を受けるから。私Dランクなの、何か良い依頼はある?」
「Dランクなのですか? でしたら―――」
「おいおい、俺らを無視するなよ!」
男はそういってアレイシアの腕をつかもうとするが、「邪魔」といったアレイシアの言葉とともに現れた魔法の壁に男の手ははじかれた。
「え、今の――」
「ねぇ、はやくおすすめの依頼教えてもらっていい? ここにあまりいたくないわ」
「えっと、じゃあ」
そしてDランクの依頼を見繕ってもらうと、アレイシアはベストを連れてさっさとギルドから出ていくのである。
アレイシアが出て行ったあと、ギルドないでは「あの魔術は…」「あんな簡単に魔術を使えるなんて」「すごい魔術師だ」とアレイシアのことが噂になっているのであった。




