16:街へと向かう最中
「ベス、大丈夫?」
「大丈夫……、ごめん、迷惑かけて」
「いいよー、別に」
『燃やす?』
「ダメだって、イチ」
アレイシア、ベスト、イチはシュノサイドから西に向かっていた。
それというものの、ベストはアレイシアの外に出るかどうかの問いに、「行きたい」と返答を返したからだ。
ヒレンはアレイシアが町から去ることをとても残念がっていた。エルフであるヒレンからしてみれば、ハイエルフであるアレイシアが町に滞在しているというだけでも嬉しい事であったらしい。
ちなみに、アレイシアはシュノサイドに滞在している間にギルドランクCまではあげていた。ベストはちまちま雑用をこなしてEである。
アレイシアたちは、シュノサイドから西に進んだ先にあるコントラという町へと向かっていた。
ベストは正直、まだ体の出来上がっていない少年である。そしてアレイシアの元で少しずつ色々学んでいるとはいえ、正直そこまで体力はまだない。アレイシアはアウグスヌスの森に居た頃から、セイナたちに稽古をつけてもらったりしていたのもあって、一日中歩き続けようが特に疲労はないのだが、ベストは違うのである。
「ちょっと、休憩しようか」
「……ごめん、アレイシアさん」
「全然いいよー。ベスってまだ子供だしね、無理をしちゃダメだよ」
アレイシアはベストを子ども扱いして、その頭を軽くなでてそんなことを言う。
「子供扱いするな!」
「うーん、そうはいっても十三歳なんて子供じゃない?」
ハイエルフであるアレイシア感覚でいえば、百歳を超えたアレイシア自身もまだ子供で、十三歳なんて本当に子どもである。人間の感覚でいっても十三歳はまだ子供だろう。
二人でそんな会話を交わしながら、街道の脇で休むことにした。
「はぁ、はぁ、アレイシアさん、体力ありすぎ」
「そりゃあ、私はお母さんとお父さんに鍛えられたからね」
何かあった時にどうにか対処できるようにと、両親――特に母親であるセイナが色々教え込んだのである。
世間的にはあまり知られていない事だが(セイナがひきこもって外でないため)、『森の賢者』は身内に甘く、アレイシアをかなり可愛がっていた。
「アレイシアさんの、両親、本当すごいな」
『セイナ様は凄いもんねー』
ベストのつぶやきに、自分の事のように嬉しそうにイチが言葉を発している。ベストに声が聞こえていないからか”セイナの名を口にしている。
セイナの名はそれなりに知られている。尤も一番最後にセイナが歴史に顔を出したのは350年も前の事であり、セイナに対する情報は失われてきているだろう。
「うん。私の自慢の両親だよ」
家族が好きだから、アレイシアは家族の話をするとき、いつもより笑顔である。
「アレイシアさんは、何で、親元を離れようと思ったんだ?」
そしてアレイシアが両親の事を大好きだと態度であらわすから、ベストはそんなことが気になったらしい。
「世界を見たかったから」
「……世界を?」
アレイシアが言った言葉に、ベストは反応を示す。
「うん。私は限られた世界しか知らなかった。だから、外が見たかったの。お母さんが持っている本の中には、外の世界が書かれていてね、それが知りたかったの」
アレイシアの生きてきた世界は限られた世界だった。
アウグスヌスの森。聖地とされる、危険な森。母親と父親と精霊たちに守れた、優しい世界。
そんな世界しか知らなかった。
だからこそ、アレイシアは興味を持った。
自分が知らない世界が、外に沢山溢れているってそういう事を知っていたから。
アウグスヌスの森は心地よい場所で、アレイシアにとって大事な場所だ。
でもそれでも、外への好奇心が勝った。
「お母さんには、反対されて、説得するのに時間がかかったの。でも、納得してくれた」
「アレイシアのお母さんって過保護なんだな」
「確かに、ちょっと過保護かな。お母さんは人が嫌いだったし、もう人間には気を付けるのよって凄い言われちゃった」
「え、そうなのか?」
人間であるベストは、アレイシアの言葉に微妙な顔になる。
「うん。でもお父さんは悪い人間も良い人間も居るっていってた。ベストは、悪い人間じゃないってそう思ったから、弟子にしたんだよ」
「……そっか」
「うん。種族全体が悪い人なわけじゃないって思うし」
そんな風に、アレイシアとベストは会話を交わす。
それからしばらく休んでからまた歩き出した。
コントスに着いたのは、ベストのペースに合わせていたのもあって、それから5時間ほど経過してからのことだった。




