14:はじめての弟子に不思議な気分
「アレイシアさん!」
アレイシアが弟子になることを承諾した少年――名前をベストという――はアレイシアの弟子になってからというもの、毎日アレイシアの後をついて回っていた。
『この人間、うざいねー、燃やす? 燃やす?』
「イチ、物騒なこと言わないの。弟子にするって言ったでしょう」
『でもずっと追い回しているしー、むー、アレイシアがそういうなら燃やさないけどさー』
精霊であるイチはベストの事を特に気に入ってはいないらしい。そもそもアレイシアに最初いちゃもんをつけてきた気に食わないらしい。
人間嫌いで有名な『森の賢者』セイナとずっとともに過ごしてきた精霊たちは人間という生き物があまり好きでなかったりする。というのも、精霊たちはセイナの事が大好きである。ずっとともに過ごしてきたセイナの頼みなら、なんでも聞くぐらいには。
「ベス、今日も来たのね」
イチの事をなだめたアレイシアはベストの方へと目を向けて、口を開いた。
「当たり前! だってアレイシアさん、俺の方から行かないとあってくれないじゃんか!」
「……弟子なんてはじめてだからどう扱えばいいかわからないのよ」
ベストの言葉にアレイシアはそう告げた。
そう、ベストの事を弟子にすることを決めたものの、その翌日アレイシアは普通に単独行動をしてしまった。あとから「何で弟子にしてくれたのにっ」と文句を言われた。
結局ベストはアレイシアが弟子にするとはいっても自分から会いにいかなければどうしようもないと悟っていつも、後ろをついて回るようになったのである。
アレイシアから言い訳を言うなれば、弟子なんてとるのははじめてでどう扱えばいいか、どんなふうにすればいいかさっぱりわからなかったのである。
―――大体、私はお母さんとお父さんに教わる側で、教える側なんて経験したことないし。
アレイシアはそんな風に思う。
エルフたちに魔術を教えはしたけれども、それもあまりうまくできなかったし、こうして四六時中一緒に居る弟子っていうものはよくわからない。
とりあえずこの弟子にして三日ぐらいでやったことといえば、剣術をちょっと教えたとかその程度である。
「とりあえず、今日は模擬戦でもしてみる?」
勝手がかからないから、とりあえずそういうことをしてみる事にした。
結局模擬戦は、「こうすればいいよー」と言いながらアレイシアが軽くあしらうといった形であった。
ベストはそれに落ち込みながらも、「アレイシアさんに師匠になってもらえてうれしい。俺、強くなれそう」と嬉しそうに笑っていた。
ちなみにこのベスト、強くなりたいとアレイシアを追い回していないと気などは体力をつけるために走り込みをしたりそういう努力はしているらしい。
「んー、強く出来るかはわからないけどね」
「いや、絶対強くなれると思う。だって俺アレイシアさんより強い人見た事ない」
「それは買いかぶりすぎな気が……」
模擬戦が終わり、ボロボロのベストに回復の魔術を唱えたあとの会話である。もちろんのこと、ベストは回復の魔術に目を剥いて驚いて、「アレイシアさんすげーっ」などと口にしていたが、規格外な両親が居るためアレイシアとしてはこのくらい当たり前であった。
「いや、買いかぶりなんかじゃない!」
「うーん、でも私は私より強い人少なくとも二人は知っているからなぁ」
「え、誰?」
「私のお母さんとお父さん。私に戦い方を教えてくれた人」
私がそう告げれば、ベストは「へぇ」と口にして続けた。
「アレイシアさんの両親ってそんな強いのか!」
「うん。私が知る限り最も強いと思う」
そもそもアレイシアの母親は、この世界で最も魔術に長けているといわれる『森の賢者』である。人間にちょっかいを出される事に嫌気がさしたセイナは恐怖を植え付け、アウグスヌスの森を聖地にまでさせた本人だ。
この世界で最も怒らせてはいけない存在であると認識されている存在だ。
アレイシアは世界が広いため、もしかしたら両親以上に強い人がいるかもしれないと思っているようだが、実際問題アレイシアの両親は世界最強といえるだろう。特に母親であるセイナが、であるが。
「アレイシアさんにそんな言われるとか凄い!」
「うん。私のお母さんとお父さんは凄いよ」
アレイシアはにこにこと自分の両親の事を語る。
アレイシアは両親の事が大好きであった。満面の笑顔を浮かべたアレイシアの笑顔を直視してしまい、ベストは顔をそらす。その笑みがあまりにも綺麗だったからだ。
「ベス、どうしたの?」
「な、なんでもない」
『アレイシアにぃ、変なこと考えたら燃やすよ?』
ずっと黙っていたイチが、なぜかそんなことをいって火の玉を出している。ベスは突然現れた火の玉に驚いている。
「な、なんで火の玉が」
「あー、なんか、イチが、『変なこと考えたら燃やすよ』って言っているんだけど。変なことって何?」
「なっ、そ、そんなこと考えていない」
ベストはそう反論するが、アレイシアの笑顔に見ほれてしまったのは事実である。そしてアレイシアは世間知らずなため、一人話がわかっていないのであった。
そんな風にはじめての弟子との生活は過ぎていく。