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12:少年と戦う(遊ぶ)

 さてさて、アレイシアは一人の少年に実力を疑われ、その喧嘩を買う事にした。

 アレイシアは自身の母親からも、見た目がか弱い事から侮られることもあるかもしれないという可能性も事前に聞いていた。今の時代の、魔術師は一人では戦えないものばかりだとも聞く。たった一人で魔術師でありながら戦えるものは、少ないのだとも。

 アレイシアは武器もその身に下げていない。実際は異空間にしまっているだけの話で、アレイシアが武器を扱えないわけではない。

 両親――セイナとフランツに魔術を使えないような不可解な状況になった場合の対処方法として、武器の扱いもしっかり習っていた。

 そもそもの話、アレイシアは見た目はともかく中身は百年生きているハイエルフである。外に出たこともなかったのもあって、常識などは知らないが、両親に様々な知識を習ってきた。戦う術も学んできた。

 だからこそ、少年と向き合ってもアレイシアが余裕そうに笑っているのは当たり前といえば当たり前のことであるのだが、

 「なんだよ、その余裕そうな顔!」

 茶髪の少年は、吠えた。

 アレイシアがにこにこと何も不安なんてありませんといった顔をしているのが気に食わないらしい。

 『何こいつ、むかつくぅ。アレイシアぁ、燃やしていい?』

 「……ダメ」

 アレイシアは少年の事を全力で燃やしたいと訴えているイチに向かって、何とも言えない表情でそう告げる。

 アレイシアはこれからも外の世界で生きていくつもりである。悪人を、殺しても問題ない者を殺すならともかく、如何にも簡単に死にそうな無害そうな少年を殺すと色々面倒そうだと思ったからだ。それに、アレイシアは基本的に平和主義である。

 母親が異世界の日本育ちだというのもあって、あまり争いを好まない性格だったのもその原因だろう。最も日本育ちだとしてもこの異世界で長い間色々な目にあってきた母親のもとで育てられたのもあって、平和主義とはいえ、容赦のないときは容赦がないわけだが。

 「誰と喋っているんだよ!」

 「んー、お友達」

 少年には精霊が見えないらしい。少年からしてみればアレイシアが誰もいない場所で一人で喋っているようにしか見えなかったのだろう。

 アレイシアは少年へと適当に返事を返しながらも、この場にいるヒレンの方へとちらりと視線を向ける。予想通り、ヒレンが恐ろしい顔をしていた。

 エルフたちにとってみれば偉大な存在であるハイエルフにそんな態度をする少年に怒りを持っているのだろう。アレイシアはそんなヒレンに、怒らないでという意味を込めて笑いかける。そうすればヒレンは渋々ながら引っ込んでくれた。

 「お友達って誰だよ! なんでそんな余裕そうなんだ!」

 「問題ないもの。貴方程度。それより、はやくはじめましょう」

 「なんだよ、その態度! 後悔しても遅いんだからな」

 そんな風に突っかかってくる少年をアレイシアは面白い物を見るような目で見る。

 限られた世界の中では、アレイシアはハイエルフの娘として、それなりの対応しかされてこなかった。エルフたちはアレイシアの事を知っていたし、いくら見た目が人間でいう若い娘であったとしてもこんな態度をされたことはなかった。

 だからこそ、何度もそういう態度をされるうちに面白いなと思った。

 外の世界は面白いと。こんなにも実力差がわからず突っかかってくるような存在もいるのかと。

 ――でも、ここで私はきっちりこの少年にその程度の実力ではやっていけないということを知らしめる必要がある。そうしなければ、この子はすぐに冒険に飛び出して死んでしまう。

 そんなことをアレイシアは考える。

 「では、はじめ」

 そんなヒレンの言葉と共にそれは始まる。

 先に動いたのは少年である。少年は腰に下げていた長剣を手に、アレイシアへと向かっていく。しかし、それをアレイシアは軽い調子でよける。

 何度も何度もそれが繰り返される。

 ――悪くはないんだけど剣筋がわかりやすすぎる。これじゃあ避けてくれっていっているようなものだよね。

 などと感じながらも、アレイシアはどうしようかなーなどと思考を巡らせる。

 倒すことなどたやすい。でも、その前に実力差をもっと実感してもらおうと思った。

 だから、手を出さず、よけるだけだった。

 幾ら向かっていっても当たらない攻撃に少年はいら立ちを持ったらしい。

 長剣を構えたまま、止まる。そして、

 「我が求めるのはかのものを燃やし尽くす炎」

 それは、魔術の詠唱だった。それにアレイシアは驚く。魔術を使えるものというものは、そうはいない。魔力は全員持つが、魔術を行使できるものはそこまでいない。ましてや、こんな見た目通りの幼い少年が使えるというのは驚きだった。

 「赤く燃え上がるそれは、目の前の対象を燃やし尽くすもの」

 一般的に詠唱とは長い。魔術師が一人で戦うのが難しいのは、長い詠唱を唱えているうちに殺されてしまうからだ。魔術が来る事はわかっているが、別にそれが向けられても問題はないため、アレイシアはそのまま、発動するまで待つ。

 「紅く紅く燃える炎は一つ」

 詠唱を聞きながらもアレイシアは、普通に詠唱するとこんなに長いのかと退屈していた。

 「かのものに向かって――」

 詠唱を聞き流しながらアレイシアはあくびをする。

 しばらくすれば、ようやく詠唱は終わったらしい。

 「《ファイア》」

 アレイシアの顔ほどの大きさの炎がスピードをあげてアレイシアに向かっていく。

 が、それは、

 「バリケード」

 たった一言のアレイシアの詠唱によって現れた障壁にぶつかって消滅した。

 「なっ」

 自分の渾身の魔術がそんな風に防がれたことに、少年は目を見開いている。

 アレイシアはそんな少年に一瞬で近づき、少年がアレイシアが後ろに居ると認識していないうちに、手刀を食らわせ少年を気絶させるのであった。







 

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