11:一人の少年と出会う。
アレイシアはのんびりと過ごしていた。シュノサイドの町から出ることもなく、淡々と魔物退治などの依頼をこなしたり、ヒレンたちのもとへ魔術を教えにいったりしながらも外の世界というものを楽しんでいた。
『ねぇ、アレイシア、もっとほかの場所に行こうとは思わないのー?』
「うーん、行きたいけどもう少しこの町でも色々調べたいのよね」
はじめての町、はじめての生活。それをもう少し楽しみたいと、もう少し色々と知りたいとアレイシアはそんな風に思っていた。
どうせ、アレイシアの寿命というものは長い。ハイエルフである両親はアレイシアが驚くほどの時の中を生きている。ハイエルフの血を引き継いでいるアレイシアもそれと同様に何百年も生きていくことになるのだ。この町で過ごす時間は、人間たちにでさえ短いと思えるようなたったの数か月だ。ハイエルフであるアレイシアからしてみれば、人生のほんの一部だ。
だからたとえ数年をこの町で過ごそうともアレイシアは特に気にしないだろう。
世界を見て回りたいと思いで外の世界に飛び出したアレイシアには、時間は沢山――いくらでもあるといえた。
そんな風に考えてのんびりと過ごしていたアレイシアだったのだが、この一週間後にこの町を出ていくことになろうとは、というより出ていこうと思おうとは想像出来ないことであった。
*
「なんで、ダメなんだよ!」
アレイシアがギルドへと足を踏み入れた時、まだ幼い少年の声が響いた。
そちらに視線を向ければ困ったように笑うヒレンと、そんなヒレンに突っかかっている一人の少年がいた。
「なんか、ヒレンに突っかかっているね」
『そうだね、なんでだろう?』
アレイシアとイチは不思議そうにヒレンとその少年へと視線を向けていた。
「だから、この依頼は貴方のような子供が一人で受けるのは認められません。ギルドに登録したての貴方がこんな討伐依頼を受けたら死にますよ」
そんなヒレンの言葉からアレイシアは、少年がギルドに登録したてでありながらも討伐依頼を受けようとして、それが無茶だと止められている事を理解する。
少年はおそらく人間だろう。そして年は大体13.14歳ぐらいだろうか。アレイシアよりも背は低い。
「でも俺は―――」
「ヒレン、話の最中にごめんね、依頼を受けたいのだけれどいいかしら?」
まだなお、ヒレンに突っかかっている少年の声を遮って、アレイシアはヒレンに声をかけた。
ヒレンはアレイシアの顔を見るなり、目を輝かせる。
「アレイシアさん、おはようございます。どのような依頼を受けたいのでしょうか?」
ヒレンはそういって、にこにこと笑う。
「どんなものでもいいわ。適当にどんな依頼があるか教えてもらってもいい?」
「ええ、もちろん」
「それより俺の――」
「こちらからどうぞ」
少年がまだ何か言っていたが、その言葉はヒレンに遮られた。そしてヒレンはいくつかの依頼書をアレイシアの目の前に出す。
そこには魔物討伐から採集の仕事まで、様々な依頼が存在した。
「じゃあ――」
そしてアレイシアがどれを受けるか決め、それを告げようとした中で、少年が叫んだ。
「なんでこいつには討伐依頼を出すんだよ!」
よっぽど不服だったのだろう、我慢できないとでもいう風に叫んだ。
そんな少年の様子に周りで様子をうかがっていたギルドにいたメンバーたちは、ジベルト・ジュノサイドの二の舞になるのではとあいつ終わったなという目で少年を見ていた。
「何をいっているのですか。アレイシアさんには何の問題もありません」
「でもこいつ、俺より弱そうじゃないか!」
「……アレイシアさんは私よりも、いえ、私と比べるのもおこがましいほど強い方です。貴方とアレイシアさんを比べること時点がおかしい、それほどまでに貴方とアレイシアさんには差がありますわ」
ヒレンは「こいつ、何を言っているんだ」とでもいうような呆れた目を浮かべながらそう言い切る。
「でも―――…」
「でもではないです。アレイシアさんはエルフです。見た目からはわからないかもしれませんが、貴方よりも年上です。アレイシアさんの実力は私も知っています」
そもそもの話、ハイエルフであるアレイシアはこの世界の最強の魔術師である『森の賢者』の娘であり、その存在から魔術を教わっていたのだ。誰よりも魔術に長け、誰よりも強いのは当たり前といえば当たり前のことなのである。
「……本当に、強いのか?」
訝しげに、少年はアレイシアの方を見て告げた。
「じゃあ、戦う? いいよ、私は別に」
そしてアレイシアは疑った目で見られることも面倒になったのか、ついそんなことを口にするのであった。