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恋愛ごっこ  作者: faye
□第一章:開けてしまった扉
9/23

□結局は自分からになるわけで。

合コン後に会おうと坂下が指定したカフェは、

イタリアンレストランから、歩いてすぐの所のようだった。

美和は携帯で場所を確認しながら、ゆっくりと歩いていく。

坂下は大通りでタクシーを拾うと言って、早々に引き上げていた。

美和は帰る際、何人かと連絡先を交換した後、

同じように大通りの方へと向かった。

歩いて5分位のようだったが、わざと遠回りして、カフェに着く。


別に行く必要はないのだが、

どうして言われるがままに来てしまったのだろう。

やはり帰ろうかとも思ったが、外を歩く美和の姿に気づいたのか、

坂下は嬉しそうな笑顔で手を挙げ、美和を呼ぶ仕草をした。

通り沿いのそのカフェは、こじんまりとしていたが、

外の通りから中がガラス越しに見えるようになっており、

外から見ても、坂下の姿は目立っていた。

ビールのグラスも一緒に見える。


「私って、バカだよね」

コートを脱ぎ、席に着くなり、美和はそう言った。

ついでに、店員にグラスワインを一杯注文する。

「拒否権発動してもいいんだろうけど、何でわざわざ来たんだろ」

「カモがネギ背負ってきた感じかな」

「……どういう事よ。」

向かいの席で、坂下はにこにこと人のいい笑顔を向けながら、美和を見る。

美和はワインを片手に、イラッとした表情で坂下を見ていた。

「今日、あなたが横に座るから全然話に集中出来なかったし」

「あ、そぉ」

「本っ当に、外面良いよね」

「まぁな。それも仕事だろ。っていうか、人の話を盗み聞きするなよ」

「真隣でセクハラされる身になってよ」

「あれくらいで文句言われると思わなかったけど」

「…逆隣でもやってたわけ?」

「あ、気になる?」

「ぜんっぜん、ごめんね」

坂下は笑いながら、ビールを飲んでいる。

美和は仕返しとばかりに、ヒールで坂下の足を蹴っていた。

「今回来たのは、お菓子のお礼」

「別に礼言われるほどじゃないよ。空港でちょっと時間あったから」

「だけど、あなたに借り作るほど怖いものないしね」

「それはあるな」

もう一杯いい?と坂下は確認を取り、美和がうなずいた後、

グラスに残っていたビールを全部飲み干していた。

「外面良いのは認めるよ。

だけど、あんたに会いたかったのは本当だから」

「……だったらお金返して」

「言ってる事辻褄合ってないぞ」

二人は大笑いしながら、その後も何杯かのお酒を飲み続け、

結局24時の閉店間際まで話し続けていた。


ふと我に返ると、不覚にも楽しんでしまっていた。

美和は居心地が悪そうに坂下の少し後ろにゆっくり続き、店を後にした。

「あ、寒いと思ったら」

坂下の声で、頬に当たる冷たい雪に気が付いた。

少しだが、雪がちらついている。

「…帰る?」

坂下は寒そうに、ダウンジャケットのポケットに手を突っ込んだ。

美和はうなずき、じゃあね、と別れようとする。

「いいよ、タクシー捕まえるまで、一緒に」

「…ありがと」

つくづく自分勝手な女だと思う。

会いたくなかった反面、会えばこんなにも楽しんでしまうなんて。

もう少し、一緒にいたいと思うなんて。

ずるい女だよな、と罪悪感に似た感情がざらりと心を揺さぶる。

坂下の何歩か後ろをゆっくりと歩きながら、広い背中をぼんやりと眺めた。

雪の冷たさで少しずつ酔いが醒めそうだった。


「そういえば、空港で見たよ。あんたと高岡さん」

坂下は、美和が少し後ろにいるを分かった上で、声を出した。

「…え?」

「最初あんたを見つけて、声掛けようかと思ったけど、やめた」

「…なんで?」

「好きですオーラを振りまいてたからだよ。

……飛んでたぞ、ピンク色のが」

先日の四国への出張の件だと思われた。

見られていたことが恥ずかしいわけではないが、

どうも説明し難い複雑な気持ちに覆われる。

そんなオーラを振りまいていたのだろうか。

「どこ行ってたの?」

「香川に2泊。部長に無理やり行かされたの」

「あんたからのお土産はないわけ?うどんとかさ」

「買ってない」

「……」

「……」

「……」

「やっぱり、いい。自分で帰れるから、大丈夫」

「……何?」

「今日は、ありがとう。お土産も」

「ごめん、気に障ったなら謝る」

違う、と美和が否定しても、坂下は納得してくれそうにない。

「じゃあ、オレが帰りたくない、って言ったらどうする?」

少し温まった手で、坂下は美和の手を取る。

美和の手は冷たく、冷え切っていたが、

坂下の手を振り払おうとはしなかった。

「じゃあ、って何よ……私は帰るよ。どっかで適当に飲んで帰れば」

「冷たいヤツだな」

「冷たいよ。うどんも買ってこないしね」

坂下が声を上げて笑ったが、美和は笑わない。

「だって、一緒にいたら、甘えてしまいそうだから嫌なの。

私はあなたみたいに器用じゃないから」

「…甘えてもいいよ。それは前に言ったと思うけど」

「……そうじゃなくて…」

「何?急に」

「…楽しかったから、何か急に…何て言うか…ごめんなさい…」

美和の指が、するりと坂下の指から抜けた。

ポケットに手をしまい、手をつなぐのは終了という合図。

「もしかしたら、高岡課長としたかった事を、

今あなたで実践してるのかな」

「ほぉ、それはまた大胆な」

「違うから、ド変態。ちょっとそれは忘れて…」

美和は苦笑し、坂下のお腹を軽くグーで殴る真似をする。

その手を、坂下は再び握り締めた。

「課長といると、楽しくて、幸せで、でもとても緊張するの。

だけどね、あなたといると、ただのんびり、時間が過ぎていくの。

利用して、課長の事を忘れるためにというよりは、

私普通に楽しんでいる気がして…」

「……」

「私はどうしたいのかなぁ…。あなたといるのが、居心地が良すぎて、

私は自分が何だかすっごい適当な、嫌な女に思えてくるのよ」

何を説明し、どう言えば自分の気持ちを伝えられるのか、

美和はそれがうまく行かない事がもどかしそうに、額を掻いた。

「やっぱりあなたといると、ずるずる深みに嵌りそう」

「2万円使っていい?」

「は!?」

「…ここはそういう流れだろ?」

意地悪く坂下は微笑む。

美和を軽く抱き寄せ、そっと腰に手をやった。

ぞくりとした感触が、美和を襲う。



「…だったら、ウチ来る?タクシーで10分だから」

美和がとんでもない提案をしてしまったと後悔するのは、

自宅に向かうタクシーの中であった。

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