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恋愛ごっこ  作者: faye
□第一章:開けてしまった扉
7/23

□ずるいのは分かってるわけで。

返信するとすぐ、更にメールが届いた。


エレベータに乗り、ロビーに下りて行く途中でメールを開く。

確信ありきで、高岡からかと思ったが、差出人は異なっていた。


《美和、出張お疲れ様。

週末の合コン、美和指定のリクエストが来ちゃいました。

なので、絶対、絶対、来てね~~というか、来い!!》


「おかしいな…合コンってそんな指定あったっけ…?」

いつからそんな制度が浸透しているのだろうか。

いい迷惑でしかなかったが、そんな事になっていると、

絶対参加しなくてはまずいだろうという雰囲気になってきた。

仲の良い同期の誘いという事もある。

今後の事もあるので、仕方ないが参加した方がいいだろう。

《分かりました。観念して行かせて頂きます》


席に着く前、急いでメールを返信した。

「眉間にしわよってるけど、何かあった?」

高岡が美和の眉間を指差し、笑っている。

考え事をする時、美和はよく眉間にしわを寄せているらしい。

自分自身では気付いてはいないが、最初にそう指摘したのは高岡だった。

仕事中にそうなっている時は、煮詰まっているときが多いという。

難しい顔をしていたのだろうか。

美和は軽く否定して、近づいてきたスタッフに、カフェオレを注文した。

「や、実は合コンのお誘いなんですよ。あんまり興味ないんですけどね」

「もしかして、璃子が言ってたやつかな」

「あぁ、そうだと思います」

「だからさ、お前第一印象は悪くないはずなんだから、

だま~~っておとなしくしておけば選り取り見取りだよ」

「どういう意味ですか、それ。

っていうか合コン自体、得意じゃないんです。仕事の一環みたいで」

「それは分かるね。名刺出すと、もうアウトだよな」

面倒だなぁ、とつぶやきながら、美和はラウンジのソファにもたれこんだ。

「まぁまぁ、意外と行ってみたらおもしろかったりするわけなんだけど」

「そうなんですけどね、行くまでが面倒で」

分かるよ、と高岡がうなずく。

頼んだカフェラテが運ばれて来た。

小皿に乗ったチョコレートが、嬉しい。

それを話すと、高岡は自分の分を美和の皿に乗せてきた。


ホテルのラウンジは、静かで、ゆったり出来る。

時間があって、のんびりしたい時は、何気に良く使っていたりするのだ。

待ち合わせ時間まであと30分ほどあった。

高岡も、美和も、特に仕事の話はせず、

ぼんやりと座り、どうでも良い内容の話を並べていた。

「あぁ、そういえばさ、結婚式の日」

「…はい?」

美和は突然の真面目な高岡の口調に、そして結婚式という単語に、

それまでだるんと座っていたが、気持ち背筋を伸ばし、座りなおした。

それを見て、高岡は苦笑する。

たいした話じゃないから、と付け加えながら。

「いや、突然いなくなってたから、ちょっと気になってた」

「あ…気付いてたんですね…本当にスミマセン。風邪気味で」

嘘を言っていることがばれるだろうか。

高岡はその辺り鋭いので、美和はドキリとした。

「いや、体調悪いのに無理させて悪かったよ」

「……」

美和は答えずに、ただ首を横に振った。

「っていうか、藤村が結婚する時さ」

「……」

「多分ショック受けるから」

「 …どうしてですか?」

「ほら、もう8年近く俺の部下でいてくれてさ。

なんだか家族みたいで…っていうか妹みたいでさ…

そうなると、純粋にショックだから。寂しいんだろうな」

「それは、お父さんの感想ではない??」

「…うん、お父さんだよなぁ」

高岡のその笑顔を見ると、美和も思わず笑ってしまう。

「ねぇ、お父さん。

私が結婚する相手は、お父さんみたいに優しい人がいいな」

美和がそう言うと、高岡は更に大笑いし、

頼むからお父さんて言うな、と付け足した。

「俺は別に優しくないよ」

「…そうですか?私は、璃子さんがうらやましいけど」

「そういや同じような事、璃子も言ってたけどね。

だけど、俺は優しいんじゃなくて、冷たいんだって思ってるよ」

「……そうかなぁ…」

「…タバコ、吸って来る」

そう言うと、高岡は席を立ち、ラウンジを出て行った。

喫煙は可能な席だが、気を使ってか喫煙所へ行っている。

「妹かぁ…まぁ、仕方ないか…」

ソファに深くもたれかかる。


もう冷えてしまったカフェオレ。

なぜか手を付ける気になれず、横にあるチョコレートにも手が伸びない。

「夕食なんだろうな。楽しみだ」

戻ってきた高岡が、美和の頭をぽんと叩いた。

「あぁ、海のものとかおいしそうですよね」

「年が明けると、四国入りが増えそうだなぁ…」

高岡は行こう、と美和を促す。

美和のバッグを取り、コートを着るのを待ってくれる。

「もちろん、出来る限り、サポートしま すよ」

「悪いけど、期待してる。多分忙しくなりそう」

タバコを吸いに行ったついでに、精算を済ましていたようだった。

お礼を言い、高岡の後に続く。

「あぁ、でも」

「?」

「2月、誕生日だろ?毎年恒例でメシ行くか?」

「あ、行きます!!」

美和は笑顔で何度もうなずく。

高岡が食事をご馳走してくれるのが毎年恒例となっていた。

入社して1年目の誕生日に、徹夜で仕事に入った美和を気遣って、

ケーキを差し入れしてくれた事がきっかけであった。

その翌年からは、二人で食事に連れて行ってくれている。

「っていうかさ、毎年毎年その時期彼氏がいないんだから、

来年こそは何とかしてくれよ」

「…家族と思ってるんなら素直に祝って ください」

「あぁ、そうだった。ごめんごめん」

一年に一度、高岡が自分の誕生日を祝ってくれる事が、

美和にとっては何よりも幸せで、幸せで、楽しみだった。

高岡が結婚してしまい、来年はもう無理かもしれないと思っていただけに、

今回の提案にほっとしている自分がいた。

まぁ、実現するかどうか分からない提案だとは思ったが、

とりあえずは楽しみが増えた。


毎年年齢を一つ重ねるその瞬間は、今年も悪くないかもしれない。

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