□ずるいのは分かってるわけで。
返信するとすぐ、更にメールが届いた。
エレベータに乗り、ロビーに下りて行く途中でメールを開く。
確信ありきで、高岡からかと思ったが、差出人は異なっていた。
《美和、出張お疲れ様。
週末の合コン、美和指定のリクエストが来ちゃいました。
なので、絶対、絶対、来てね~~というか、来い!!》
「おかしいな…合コンってそんな指定あったっけ…?」
いつからそんな制度が浸透しているのだろうか。
いい迷惑でしかなかったが、そんな事になっていると、
絶対参加しなくてはまずいだろうという雰囲気になってきた。
仲の良い同期の誘いという事もある。
今後の事もあるので、仕方ないが参加した方がいいだろう。
《分かりました。観念して行かせて頂きます》
席に着く前、急いでメールを返信した。
「眉間にしわよってるけど、何かあった?」
高岡が美和の眉間を指差し、笑っている。
考え事をする時、美和はよく眉間にしわを寄せているらしい。
自分自身では気付いてはいないが、最初にそう指摘したのは高岡だった。
仕事中にそうなっている時は、煮詰まっているときが多いという。
難しい顔をしていたのだろうか。
美和は軽く否定して、近づいてきたスタッフに、カフェオレを注文した。
「や、実は合コンのお誘いなんですよ。あんまり興味ないんですけどね」
「もしかして、璃子が言ってたやつかな」
「あぁ、そうだと思います」
「だからさ、お前第一印象は悪くないはずなんだから、
だま~~っておとなしくしておけば選り取り見取りだよ」
「どういう意味ですか、それ。
っていうか合コン自体、得意じゃないんです。仕事の一環みたいで」
「それは分かるね。名刺出すと、もうアウトだよな」
面倒だなぁ、とつぶやきながら、美和はラウンジのソファにもたれこんだ。
「まぁまぁ、意外と行ってみたらおもしろかったりするわけなんだけど」
「そうなんですけどね、行くまでが面倒で」
分かるよ、と高岡がうなずく。
頼んだカフェラテが運ばれて来た。
小皿に乗ったチョコレートが、嬉しい。
それを話すと、高岡は自分の分を美和の皿に乗せてきた。
ホテルのラウンジは、静かで、ゆったり出来る。
時間があって、のんびりしたい時は、何気に良く使っていたりするのだ。
待ち合わせ時間まであと30分ほどあった。
高岡も、美和も、特に仕事の話はせず、
ぼんやりと座り、どうでも良い内容の話を並べていた。
「あぁ、そういえばさ、結婚式の日」
「…はい?」
美和は突然の真面目な高岡の口調に、そして結婚式という単語に、
それまでだるんと座っていたが、気持ち背筋を伸ばし、座りなおした。
それを見て、高岡は苦笑する。
たいした話じゃないから、と付け加えながら。
「いや、突然いなくなってたから、ちょっと気になってた」
「あ…気付いてたんですね…本当にスミマセン。風邪気味で」
嘘を言っていることがばれるだろうか。
高岡はその辺り鋭いので、美和はドキリとした。
「いや、体調悪いのに無理させて悪かったよ」
「……」
美和は答えずに、ただ首を横に振った。
「っていうか、藤村が結婚する時さ」
「……」
「多分ショック受けるから」
「 …どうしてですか?」
「ほら、もう8年近く俺の部下でいてくれてさ。
なんだか家族みたいで…っていうか妹みたいでさ…
そうなると、純粋にショックだから。寂しいんだろうな」
「それは、お父さんの感想ではない??」
「…うん、お父さんだよなぁ」
高岡のその笑顔を見ると、美和も思わず笑ってしまう。
「ねぇ、お父さん。
私が結婚する相手は、お父さんみたいに優しい人がいいな」
美和がそう言うと、高岡は更に大笑いし、
頼むからお父さんて言うな、と付け足した。
「俺は別に優しくないよ」
「…そうですか?私は、璃子さんがうらやましいけど」
「そういや同じような事、璃子も言ってたけどね。
だけど、俺は優しいんじゃなくて、冷たいんだって思ってるよ」
「……そうかなぁ…」
「…タバコ、吸って来る」
そう言うと、高岡は席を立ち、ラウンジを出て行った。
喫煙は可能な席だが、気を使ってか喫煙所へ行っている。
「妹かぁ…まぁ、仕方ないか…」
ソファに深くもたれかかる。
もう冷えてしまったカフェオレ。
なぜか手を付ける気になれず、横にあるチョコレートにも手が伸びない。
「夕食なんだろうな。楽しみだ」
戻ってきた高岡が、美和の頭をぽんと叩いた。
「あぁ、海のものとかおいしそうですよね」
「年が明けると、四国入りが増えそうだなぁ…」
高岡は行こう、と美和を促す。
美和のバッグを取り、コートを着るのを待ってくれる。
「もちろん、出来る限り、サポートしま すよ」
「悪いけど、期待してる。多分忙しくなりそう」
タバコを吸いに行ったついでに、精算を済ましていたようだった。
お礼を言い、高岡の後に続く。
「あぁ、でも」
「?」
「2月、誕生日だろ?毎年恒例でメシ行くか?」
「あ、行きます!!」
美和は笑顔で何度もうなずく。
高岡が食事をご馳走してくれるのが毎年恒例となっていた。
入社して1年目の誕生日に、徹夜で仕事に入った美和を気遣って、
ケーキを差し入れしてくれた事がきっかけであった。
その翌年からは、二人で食事に連れて行ってくれている。
「っていうかさ、毎年毎年その時期彼氏がいないんだから、
来年こそは何とかしてくれよ」
「…家族と思ってるんなら素直に祝って ください」
「あぁ、そうだった。ごめんごめん」
一年に一度、高岡が自分の誕生日を祝ってくれる事が、
美和にとっては何よりも幸せで、幸せで、楽しみだった。
高岡が結婚してしまい、来年はもう無理かもしれないと思っていただけに、
今回の提案にほっとしている自分がいた。
まぁ、実現するかどうか分からない提案だとは思ったが、
とりあえずは楽しみが増えた。
毎年年齢を一つ重ねるその瞬間は、今年も悪くないかもしれない。




