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恋愛ごっこ  作者: faye
□第一章:開けてしまった扉
6/23

□分かってるから、ってことで。

四国への出張を命じられた美和と高岡は、

最終便の飛行機の離陸を待っていた。

本来ならば翌日からでもよかったのだが、

残念ながら翌日の飛行機が満席でキャンセル待ちも出来なかったため、

前日からの四国入りとなったのだった。


四国支社での打ち合わせを兼ねた、新規プロジェクトの話し合い、

それから現地視察などが今回の目的だった。

先日大桑に頼んだデータ分析はもとより、新規プロジェクトの提案など、

美和は睡眠も片手間となるほど、仕事に追われていた。

飛行機を待つ間、イスに腰掛けていると、自然と睡魔が襲ってくる。

紙に書かれた文字が、まるで浮かび上がって、ふんわりとしてくるのだ。

こくりこくりと頭を上下させていると、

力が抜けたのか手に持っていた手帳を落としてしまった。

バサリという音で目が覚める。

「…ん、しまった…」

美和は目頭を押さえながら、横においていたバッグに手を伸ばす。

ふと見ると、バッグの上に缶コーヒーが置かれていた。

まだ冷たい。

すぐ向かいの席では、高岡が携帯をいじっている。

缶コーヒーを置いた主は、気付かない振りをしているが、

美和は小さくお礼を言った後、コーヒーに口をつけた。


「起きた?」

すぐ真隣に高岡が腰をかける。

「すみません、ちょっと寝ちゃってました…」

「いいよ。

俺が休んでる間、仕事のフォローたくさんしてくれてたみたいで、

本当に助かったし」

「…いえ…」

「だからスーツなしで行こうと思ったんだよ。その方が藤村も楽だろ?」

すぐに搭乗の案内のアナウンスが流れた。

立ち上がり、缶を捨て、美和はごちそうさまでした、と高岡に告げる。

高岡の優しいところは、こういう時、知らない振りをする所だ。

美和が缶を捨てに行くのを待つ間、

先に美和の荷物を持ってくれている所だ。

「いいよな、たまには私服の藤村も」

「どういうことですか?普段イケてないですか?」

「嘘だよ」

「課長は若く見えていいですよ」

「は?それ普段老けてるって事だろ?」

「いえいえ、それは言ってませんから」

美和は荷物を受け取り、先にタラップへと歩き始める。

最終便という事もあり、機内は混み合っていたが、

3列あるシートは美和と高岡の2人だけだった。

妙に緊張するのはなぜだろう。


高岡がシートベルトを締めるその指に、きらりと光るものがある。

何日か経って、見慣れてきたとは思う。

それは今までずっとなかった物なのに、

居心地が良さそうに定位置にはまっていた。

「何?」

美和の視線に気付いてか、高岡が声をかける。

「指輪、慣れましたか?」

「あぁ~、そうだな…どちらかというと、照れくさいよ、まだ」

高岡は恥ずかしそうに笑みを浮かべている。

幸せそうな笑顔だ。

高岡の笑顔を見るのは大好きだが、その笑顔を見るのは大嫌いだ。

「藤村は、今彼氏は?」

「…彼氏…というと1年位不在ですねぇ」

「もてるのに彼氏作らないの?」

「もてませんから」

しれっと美和は高岡を否定し、また目を瞑った。

「かわいげのないやつ」

高岡は肘で美和の腕を突いたあと、目を瞑る。

美和はふふふと笑い、ちらと高岡を見た。

口元に笑みを作り、目を閉じている。

何度見ても、好きな人の顔は好きだ。


もう誰かのモノだけど。


そう思うと、途端に胸が苦しくなるのだった。



翌朝はホテルでしっかりと朝食を取り、

9時過ぎにはタクシーで支社へと向かった。

この度の仕事は海岸沿いに出来る新しい工場の建設に伴う、

建築物資の輸送がメインの話し合いとなっていた。

建築物資の選定等は、高岡が勝ち取ってきた営業の結果だった。

工場建設は来年度に向けての計画となると思われる。

これから何度かまたこの場所に足を運ぶことになるだろう。


建設に関わる人員との挨拶まわり、

またこれからのプロジェクトに関する重要な人たちとの名刺交換。

また忙しくなるだろうという予感が、美和の士気を上げてくれる。


支社方から昼食をご馳走になった後は、

再度支社で会議をはさみ、一旦休憩にホテルへ戻ったのは夕方だった。

夕食は接待とまでは行かなくとも、

予約されているレストランへ向かうことになっている。

部屋に戻ると、美和は急いで軽く化粧を直した。

海の近くにあるこのホテルからは、

最上階にあるバーラウンジから綺麗な海と夜景が見えるという。

プライベートであればそそられるが、今回は仕事だ。

仕事が忙しくなると、美和は禁酒に走るため、

気が付けばもう何日も飲んではいなかった。

正確には高岡の結婚式の日以来、飲んでいない。


携帯が鳴っている。

ベッドに腰掛け、確認すると、メールが一通来ていた。

高岡からだった。

ロビーラウンジでコーヒーを飲んでいるから、

良かったら一緒に、という内容だった。

美和はそれだけで、嬉しかった。

すぐに行きますという内容で返信する。


やめなくてはいけないのは分かっている。

そう思う自分と、別に構わないと言う自分が同居しているのだから、

他人にどうこう言われてもどうしようもない。

だが、高岡がこういうメールを寄越してくるのは、

自分に好意がないと思われているからだということは分かっている。


自分の気持ちに気付いてくれていないのはつらいが、

既に破綻を迎えているのだから、別にどうでも良いと思っている。

自分の好意が向かっているベクトルの先は、未来には、何もない。

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