表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛ごっこ  作者: faye
□第一章:開けてしまった扉
5/23

□運が味方するときもあるわけで。

週の始まり、爽やかな月曜日だというのに、

猛烈な睡魔と闘いながら、坂下は飛行機に乗り込んだ。

飛行機に乗ってしまえば、少なくとも1時間くらいは眠れそうだ。

ゆっくり眠りたいがために取ったプレミアムシートにもたれこむ。


ちょうど、自分の関係している仕事の関係で、

国内ばかりではあるが出張が続き、プライベートな時間も取れずじまい。

自分の仕事のためとはいえ、さすがにちょっと疲れ気味だ。

北海道と東京は近いが、わずかな睡眠でもしっかり取りたかった。


今回は北海道への出張だった。

大体どの土地も、旅行で行く分には良いのだが、

仕事となると折角の観光地も掠れて見えるから不思議だ。


坂下は空港で飛行機の搭乗を待つ間、

会社用にと、定番のお土産をいくつか選んだ。

そしてその後物凄く悩んで、小さめのチョコレートの箱を選び、

会社用とは別に、自分の鞄にしまい込んでいた。


自己摂生の得意そうなあの女に、いつか無理やり渡してやれと、

半ば自嘲気味に買っていた。


思えば、先週の日曜日。


腹の立つことに、連絡先も告げずに美和は消えていた。

自分は自分で、その前の勤務が残業続きだったこともあり、

不覚にも爆睡してしまっており、目が覚めたときには一人だった。

しかも、2万円が置かれていた。

それが余計に腹が立つ。


ラッキーなことに、今まで女性に不自由したことはない。

まともに付き合った女性は少ないほうかもしれないけれど、

一晩限りや、適当に遊ぶ女は山ほどいた。

それゆえに、お金を置いていかれたことや、

連絡先さえよこさない美和に、妙にイライラさせられたのは事実だ。


とりあえず、2万円を返したいと思っていた。

もしかしたら、返したいのはただの口実で、

ただ純粋にもう一度会いたいと思っている自分もいる。


別に会社が分かるから、会おうと思えば会えるだろうし、

部署こそ分からないが、呼び出しをすれば可能だろうと考えていた。

少し前に一度だけ、近くの商社に出向く用事があり、

会社の前を通ったのだが、坂下は声をかけるのをやめておいた。


自分らしくない、と坂下はため息をつく。

自分らしくない行動を取るのが、嫌だった。


完全に眠っていたようだが、着陸のアナウンスで起こされる。

好きではない休日出勤もこなしたのだから、

今日くらいは早く帰っても、許されるだろう。

飛行機から降り、預けていた荷物を受け取る。

時計を見ると、時間は19時過ぎだった。

思っていたよりも早く帰宅できるかもしれない。

あくびを噛み殺しながら、出口へと向かった。

今日は一旦帰社した後は、週末にある会議資料を簡単に作成し、

それからマンションに戻るつもりだった。

上手くいけば、今日はゆっくりと眠れそうだ。


スーツケースを転がしながら足早に歩いていると、

少し離れたところに、美和らしき人物の姿が目に入った。

坂下は思わず方向転換して、人物の確認に何度も視線を行き来させる。

何というタイミングだと、思わず眠気も飛んでしまっていた。

スーツではなく、割とカジュアルな服装で、

ゆったりと髪の毛をまとめていたが、間違いなく美和だった。

一言、先日の文句でも言ってやろうという気持ちが逸っていたが、

何歩か踏み出したところで、連れの姿がすぐに見て取れた。


高岡だ。


美和は笑顔で高岡と一緒に資料に見入ったり、

時折手帳を開いていろいろ書き込んでいるようだった。

高岡も同じくスーツではなく、私服のようだった。

出張だろうとは思っていたが、違うのかもしれない。

しばらくどうすべきか考えていたが、

またUターンして、出口方面へと向かうことにした。

別に遠慮をしなくてはならない道理はないのだが。


妙にイライラとする気持ちばかりが坂下を困らせる。

空港を出てタクシーを拾おうとすると、坂下の携帯が鳴った。

「はい、坂下」

【お疲れ様、今大丈夫?】

明るい声が聞こえる。

同期の男からの電話だった。

「あぁ、今羽田だから、もうすぐ戻るよ」

【あ、そしたら戻ったら話すよ。急ぐ話題じゃないし】

「いや、いいよ。どうせタクシーに乗る予定」

タクシーのトランクにスーツケースを載せ込み、座席に座りこんだ。


車はやがて発信し、北海道の街中の景色から、

慣れ親しんだ街の景色が目に飛び込む。

【坂下、今週の金曜の夜って空いてるか?】

「…ちょっと…すぐ確認する…」

手帳をめくり、今週の金曜日の予定を見たが、夜は何もなさそうだ。

「あぁ、空いてるよ。何?」

【ほら、こないだの璃子の結婚式でさ、

旦那側の会社の出席者でカワイイ子結構いたじゃん】

「…あぁ…」

【ツテが出来て、合コン出来ることになったんだけど、来ない?】

「……」

【っていうか、坂下!頼むからお前来てくれよ~。

お前のご指名も入ってるんだよ~】

そうなっているのではないかと薄々感じていたのだったが、

坂下の予感は的中していた。

自分をダシに合コンの開催を企画される事は、今までも多々あった。

それについては別に悪い気はしないのだが、

女性が自分のタイプでも何でもなければ、ただ面倒なだけだ。


ふと、美和が来るのかどうか気になった。

彼女の場合は、呼んでも来そうにない感じだが…。

ただ、おもしろそうなので、試してみるかという気がしてきた。

「わかった、いいよ。でも注文つけといて」

【何なに?】

「背の高い女の子いただろ。そいつが来るなら行ってもいいよ」

【あぁ、藤村って子?

お前と一緒で、あの子結婚式の途中で帰ったんだよな。

その子来るなら、俺も楽しみだわ。OK、向こうの幹事に伝えておくよ】


他の同僚まで、名前をチェックしていたとは。

坂下は笑いをこらえながら、電話を切った。

2万円を返すいいチャンスが出来た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ