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恋愛ごっこ  作者: faye
□第三章:閉めかけた扉
21/23

□この思いは分からないわけで。

「とりあえず。聞きたい事と、言いたい事が山ほどあるんだけど、

どうしたら良い?」


美和はグラスの合わせる音が消える前に、先に口を開いた。

「だったら連絡くらいして来いよ」

「そっちこそ連絡一つ寄越さないくせに」

「や、そういうわけじゃないんだけどね。

ちょっと海外出張に出てたのは確か。あ、お土産あるから」

誤魔化されませんから、と美和はカクテルを煽る。

やはり薄めのカクテルでは酔えそうもない。

結局はいつもの好きなカクテルを作ってもらう事にした。

それを見て、坂下は笑っている。

笑わないで、と美和も応じた。

今まで通り、笑顔で会話を出来ているような気がしていた。

未だに緊張は解けないが。

「何?その手は」

美和の差し出した手の平に、坂下は怪訝な表情で尋ねる。

「お土産」

「ウチに置いてるから。来たらあげるよ」

「…誘拐魔の手口?」

「そーだよ」

坂下は笑いながら水割りを飲み干していた。

同じものを、と二杯目を注文している。

店員が来るまでの間、二人とも夜景をじっと見ていた。

一緒に流れる時間が、とにかく心地よかった。


「そういえば、オレの家に呼んだ事なかったね」

「…それもフェアじゃないよね。私の方ばっかりだったかも。

呼んでくれなかったのには理由でもあるの?」

「じゃあ、聞くけど。あんたが一番気になるのは、こないだの女性だろ?」

「自惚れないで。一番じゃないわよ」

「あぁ、そ」

「…や、けど、まぁまぁ首位には近いけどね」

素直じゃないな、と坂下は軽く笑う。

その笑顔が何となく腹が立ち、美和はこつんと足を蹴った。

だが、それが自爆行為だったと気付くのはもうすぐで。

坂下の手が、美和の膝に乗せられる。

久しぶりに感じる坂下の温かい手。

長い間、坂下に触れられていなかったせいか、更に緊張してしまう。

「…相変わらずセクハラなわけ?」

「美和にだけだよ」

「それなら帰る」

「…別にやましい関係でも何でもない、って言ったら信じる?」

「……どうだか」

二人の間に沈黙が流れる。

心拍数が上がっているのを、坂下に悟られはしないだろうか。

顔が赤くなってしまっているだろうが、

薄暗い店内のため、きっと坂下には分からないだろう。

美和が体勢を変えると、坂下はようやく手を退けた。

残された温かさは、やがて消えた。

「…っていうか、そうやって…そういう風に言われても。

私は肯定する立場でも、否定する立場でも、何でもないんだから」

「……」

「あなたがこないだの女の人とヤッてても、

私はどうしようも出来ないんだよ」

「や、だからあの彼女とは何もないから。

バレンタイン後で食事の約束してただけ」

「…どっちでも良いよ」


美和はソファにもたれかかり、窓ガラスの向こうに広がる夜景を眺めた。

だんだん滲んでいるのは、自分の涙のせいだろう。

坂下に気付かれないように、目を閉じて、じっと堪える。

こんな事で泣きそうな自分がとにかく情けない。

「…どっちでも良いわけ?」

「……良くは、ない」

「……うん、それ聞けて、ちょっと安心した」

「安心してる人が、よくデートばっかりしてるよね。仕事暇なわけ?」

「暇じゃないって」

「でも、前も言ってるけど、私はずるいから。

高岡課長としたかったことを、あなたで実践してるだけかもしれないし、

本当に適当に利用しているだけかもしれないし。

でも…でも、こんな事言ってると、私があなたの事好きみたいだから嫌」

「でも、嫌いじゃないだろ?」

美和は顔をぷいと横に向け、返事はしない。


「あんたが後悔してるのは分かる。だけど、それはオレも同じだよ」

「……」

「軽い気持ちで声掛けたけど、何であんたにはまってるのかな。

オレは本気の恋愛なんて、しばらくするつもりなんてなかったんだけど」

坂下はため息を吐き、美和と同じように夜景を見つめ ている。

言葉を少しずつ選ぶかのように話す坂下の横顔を、

美和はじっと見つめていた。

坂下は時折言いにくそうに、ため息を混ぜていた。

「多分、美和がオレのものにならないから、はまってるんだろうな」

「……何それ」

「ごめん、この話は言いたくなかったけど。

ちょっと…自分がこんなに小さい人間だと思わなかったし 、

あんたが自分の誕生日に高岡さんを優先した事にも、

すごく嫉妬してしまったし、どこかで間違ったんじゃないかと思ったよ」

「…誕生日の事…知ってたの?」

「あんたが高岡さんを優先する気持ちも分からなくはないけどね。

だけど、やっぱりオレはどうしても追い越せてないわけだし」

美和はバツが悪そうに、下をうつむいた。

だけれども、ごめんなさいと謝るのはおかしいだろうが、

こういう場合何を言っていいのか分からない。

ただ、沈黙を貫いていた。

「……別にあんたはオレの所有物でも何でもないんだ。

誰を優先しようと、オレには何も言う権利はない。

あんたと一緒だよ。すごく、すごく、悔しかっただけ」

「……悔しいって…おかしいよ…」

「だから、 もう、はっきりさせたい」

「……それって、こないだの私の話じゃない?」

美和の問いに、坂下はなかなか口を開こうとしない。

言い難そうに言葉を考えているようだったが、

坂下はグラスをテーブルに置くと、空いた手で美和の手を握った。


離そうにも、離せそうにない。

繋がれた手が、指が、熱い。



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