表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛ごっこ  作者: faye
□第三章:閉めかけた扉
19/23

□タイミングの悪さは誰の所為でもないわけで。

休憩の合間に、携帯の着信履歴をチェックするのが日課になってきた。

会社関係が多く、友人や家族からのものがちらほら。

坂下からのものはゼロ。

イラつく前に、自分から電話をかければ良いだけの話。

しかし、それができないまま、もう一週間以上が経っていた。

このままいけば、終わってしまうのではないだろうかという不安がよぎる。

所詮は坂下からの言葉も、その程度だったと受け止めれば、

何とか自分がこれ以上傷つくのは避けれそうな気がした。



ほぼ行きつけになっている会社の近くのスターバックス。

休憩がてら店内で一杯飲んだ後は、温かいカフェオレをテイクアウトし、

また冷たい風の吹く外に出た。


気が付けば、あの時のイルミネーションはなくなっていた。

毎日行き帰りで通る道だというのに、

いつの間になくなっていたのか気付くこともなく、

また寒々しい裸の木々だけの大通りに変化している。

昼間は気付かないのも無理がないかと、美和は自分に言い聞かせ、

わずかに日当たりの良さそうな道路を歩く。

美和は少し歩くペースを抑え、ゆっくりめに通りを歩いた。

2月も下旬を迎えると、何となく春を迎える準備のようだ。

デパートの装飾や、すでに春物の服を売り出している様子が、

何だか明るい気持ちにさせてくれそうな気がする。

もし少し早く帰れるときがあれば、デパートにでも寄って帰ろう。

春物のトレンチコートでも買いたい。

などとぼんやりと考えてショーウィンドゥを眺めていると、

携帯の着信音が急に美和を現実へと引き戻した。

同期の友人からの電話だった。



「もしもし?」

【美和?今日は会社戻る?】

「うん、外出してたけど、すぐ戻るよ。」

【じゃあ、たまには飲みに行かない?いろいろ話したいし】

いつもの所に行かないかと誘われる。

おそらく行きつけのバーだ。

会社からも近いので、気分転換をしたいときによく仲間内で出かける所。

たまには良いかと考え、早めに終わらせて行くと約束をした。

少し冷たい風から逃れるためにも、早足で会社へと戻った。




「あ、部長。お疲れ様です」

「おっ、ふじ。丁度良かった。話があるんだ」

帰社してデスクに戻るなり、部長に捕まる。

というよりも、美和が帰社するのを待っていたかのように呼び止められた。

マフラーをはずし、コートを脱ぎ、

何でしょうか、と部長のデスクにすぐに近寄る。

何だか嫌な予感がするが、顔には出さない。

「戻ってきて早々、こんな話で申し訳ないんだけどなっ」

「…はい?」

「来週高岡が新婚旅行から帰って来たら、

四国支社の方へ一週間出張に行ってくれ。」

「え?一週間もですか!?」

まさかの提示案に美和は驚いたが、部長の話は止まらない。

「えぇ~と、だから3月に入ってすぐだな。

ホテルの手配は悪いけど高岡の分も頼む。

ま、向こうでの仕事は高岡も一緒だから、問題ないだろう」

「や、決算期だし、私も仕事いくつか持ってるのが…」

「それなら大桑に引き継いでくれ。あいつなら大丈夫だろ」

「…まぁ、信頼はしてますけど…この時期にですか?」

「まぁまぁ、無理ならお前が両方やればいい。

出来る限り高岡をしっかり補佐してやってくれ。

というか、今回のこの仕事はお前たちがしっかりやってくれてるからこそ、

新しい工場建設に結びついたんだ。なっ。じゃ、お疲れさん」

有無を言わせない言い方で、部長は話を締めくくる。

出張がなければ、仕事を両方やりきるのは

可能かもしれないが、地方出張の合間ではまず不可能だ。

大桑に頼まなくては、乗り切れないだろう。

「…一週間も…またよりによってこのタイミング…」

デスクに戻り、はぁと特別大きなため息を漏らした。

高岡が新婚旅行から戻ってくるまで、あと数日。

3月に入るとすぐ出張準備となると、大桑への引継ぎ事項も多くなる。

これでは今日飲みに行くのは遅くなるかもしれない。

眉間にしわをよせ、パソコンに向かっていた。




ぴゅうと夜の冷たい風が、美和の足元をくすぐる。

マフラーをしっかり巻き、会社から歩いてすぐのバーへと向かう。

友人をずいぶん待たせてしまっている。

早歩きで向かっていると、物凄く見慣れた顔の男が目に入った。

間違いなく坂下だった。

お互いにすぐ存在に気付いたが、声は掛けないし、掛けようともしない。

坂下の隣で歩く、キレイな女性の姿。

親しそうに坂下に腕を絡ませている。

美和も坂下も、普通に無言ですれ違った。

すれ違って何歩か歩いた後、胸がちくりちくりと痛むのを感じる。


デートだろうか。

別に構わないが、無視されたのでは余計に気分が悪い。

美和は思わず歩みを止め、坂下の方を振り返った。

二人の姿が視界に入る。

坂下は時折その女性とウィンドウショッピングをしながら歩いていた。

どうしてこんなタイミングで、どうして坂下に会ってしまうのだろうか。

この広い町に、何人もの人がいるというのに。


お願いだから、振り返って欲しいという気持ちが、

美和の心を更にざわつかせる。

坂下の姿がだんだん見えなくなってくる。

頭を掻き、やるせないため息を大きく漏らした。

他の女と一緒にいるところを見るのは、何となく嫌なものだと。

別に自分のものではないのに、と思ってしまう。



今晩はしっかり酔えそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ