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恋愛ごっこ  作者: faye
□第二章:開けられてしまった扉
16/23

□だから知らない方が正解なわけで。

坂下のマンションを出ると、なぜか雨は止んでいた。


璃子は坂下のマンションのエントランス近くに走ると、

待たせていたタクシーに乗り込み、自宅マンションへと行先を告げた。

坂下に対しての苛立つ気持ちはすぐに消えたが、

坂下が思いを寄せる相手がどういう相手なのか、妙な興味だけが沸いていた。



思えば、璃子が坂下と付き合ったきっかけは本当にいい加減なもので、

説明しろと言われても、はっきりと思い出せない位だった。

入社後、璃子は総務課に配属されていたが、5年目で異動。

営業補佐として今まで全く経験のなかった部署への配属だった。

畑が違えば何とやら、で苦労の連続の毎日だったが、

補佐で当たったのが坂下だった事が幸いだった。

大口スタンダードタイプの取引が多い坂下の営業補佐は、

ある意味基礎さえ出来ていれば、ある程度こなせて来るようになった。

そうなれば、坂下から璃子へのある程度の信頼も出来てくるようになる。

璃子は璃子で、常に成績もトップクラスで、

社内でもエースと名高い坂下の補佐が出来ている事が誇らしかった。

一番仕事が楽しかった時期かもしれない。

どちらから誘ったかと言われると、多分璃子自身だと思う。

二人で飲みに行った帰りに、そのままホテルへ直行していた。


何となく身体を許してしまい、何となく付き合う事1年弱。

本やドラマのような「大切な恋人」というよりは、

たまに食事をして、身体だけ提供し合う、そんな関係。

だから別に「恋人」としてカウントしてはいない。


その関係がつらいと思う時はあったが、

坂下が何度となく浮気をしていたのを知ったのも同じ時期。

自分が浮気なのかもしれないと思ったのも同じ時期。

だから自分も同じように他で遊び続けたが、

坂下はそれを知っても、何も咎めなかった。

浮気というよりは、お互いに本気はどこにもないようだった。

ある意味とても楽で、ある意味とても空しかった。


そんな折、坂下がずっと海外事業部への異動希望を出していることを知り、

ようやく坂下が本気にならない理由が分かった気がした。



今いる場所を、いつでも切り捨てられるようにしているのだと。



それが分かり、璃子は坂下との縁を切ったのだった。

仕事一筋で、せいぜい適当に遊んでいれば良い。

徹底すらしており、なぜか逆に、惹かれたところもあったが。



恭輔と出会ったのはその頃だった。


恭輔の会社に出向いた際に、偶然大学時代の友人に再会し、

その友人の紹介で恭輔に出会ったのだった。

優しくて、自分を一番に認めてくれる相手。

坂下とは埋めれなかった溝を、埋めることが出来る相手だった。


タイミングが良かったと言えばそれまでかもしれないが、

言い方を変えればそれは自分にとっての運命だったと思える。



「璃子!」

タクシーを降りると、聞きなれた声がして思わず驚いた。

恭輔もちょうど帰宅したところのようで、タクシーから降りている。

恭輔の元に小走りで駆け寄った。

「早かったのね。ちょうど良かった。お疲れ様」

恭輔の顔を見ると、何となくほっとしてしまう自分がいて、

やはり自分はこの人が好きなのだと、思わぬ再確認だった。


「藤村、知ってると思うけど…」

高岡はタクシーに残る美和に声をかけた。

璃子はちら、と車内に目をやり、中にいる人物を確認する。

「お世話になります、藤村美和と言います」

そう自己紹介する女性を見て、璃子ははっとしたのだった。

忘れたくても忘れられない名前の一つに、急遽カウントされた名前。

坂下がどこでどうやって知り合ったのかは知らないが、

絶対にこの「美和」が、坂下の口にした「美和」だと思った。

女の勘だった。


美和は降りれずに申し訳ないという表情で、

璃子に向かって、タクシーの中でぺこりと頭を下げた。

「結婚式以来よね。先日はどうもありがとう」

「すみません、いつも課長にはお世話になりっぱなしで…」

美和はまさか璃子に会う事を予想すらしていなかったため、

凄く心拍数が上がっているのではないかと思うほど緊張していた。

久しぶりに見た璃子は、同性から見てもやはり綺麗だった。

「…ううん、こちらこそ。いつも恭輔のフォローありがとう」

「…いえ…」

高岡を下の名前で呼べる女性。

軽い嫉妬が湧き上がりそうになりつつも、美和は謝罪を口にする。

「ホントすみません、課長お借りしてしまって…」

「大丈夫だから、全然気にしないで。

今日は楽しかった?誕生日おめでとう」

「ありがとうございます。それじゃ、すみません失礼します」

璃子の笑顔に、何だか気迫負けしてしまいそうだった。

「藤村、気を付けて。また明日」

おやすみなさい、という挨拶を交わし、タクシーはまた走った。

後ろを振り返ると、二人が仲良く並んで歩いている姿が見える。

車内に残された美和は、どっと疲れを感じ、シートに大きくもたれ込んだ。


車窓から見る外の景色。

冬の景色は全てがグレーに染まって見えるから、何だか悲しい。

ふと気が付けば、ところどころの街中が

赤いリボンでラッピングされているかのような錯覚を覚えた。


もうすぐバレンタインデーだ。

そういえばすっかり忘れていた。

バレンタインデーの存在をすっかり忘れているなんて、

自分の女子力は一体どうなっているのだと、少し不安すら感じてしまう。

社内で渡しても良いのだが、キリがないという自分勝手な理由から、

義理チョコは一切渡さず、いつも高岡にちょっと良いチョコレートを渡すくらい。

今年に至ってはそれすら購入していない。

誰かに渡すくらいなら、自分で山ほど食べたいと思う。


それは叶わないものだし、その程度なものでしかなかった。

寂しすぎる、と美和は項垂れた。

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