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恋愛ごっこ  作者: faye
□第一章:開けてしまった扉
10/23

□セクハラ大魔人には注意なわけで。

部屋の鍵は開けたが、靴を脱ぐのは、もどかしいくらいだった。

玄関には無造作に二人分の靴が転がる。

坂下の指は、美和の肩や頬に触れたまま。

時間にしたらほんのわずかな間だろうが、

とても長い間、キスをしているような感覚だった。

抱き寄せられた、胸が熱い。

「…会って2回目の人を家に呼ぶなんて」

リビングのソファに身体を倒され、気が付けば上半身は下着だけ。

一体どこでこんな技を覚えてくるのだろうかと、

ぼんやりとした頭で美和は考えていた。

「あぁ、親が泣くね」

坂下は意地悪く耳元でそうつぶやき、首元にそっと唇を落とす。

冷えた身体には、ひどく温もりを感じる。

「っていうか、っていうか、セクハラが過ぎるんですけど!」

「…何が」

ぐい、と肩を押され、身体を離された坂下は不機嫌そうに返事をする。

中断された事に抗議するかのように、

しゅるりという音をたて、ネクタイを外した。


家に向かうタクシーの道中でずっと、坂下は美和の肩を引き寄せたまま。

必要以上に密着してしまっていることに、

それだけで心拍数はあっという間に上がっていく。

それだけならまだしも、運転手の目を盗んではキスを落とし、

更には美和が抵抗するのを面白がって、

坂下は何度か美和のスカートの中に手を入れてきたのだった。

確かに、また誘ってしまったのは美和自身だが、

そこまでのオプションを頼んだつもりはない。


「普段どこで実践してるのよ…このセクハラ大魔人…」

「ん?オレのほうが実は我慢出来てないんだよ」

「…ちょっ…」

美和の腰を引き寄せ、また長いキス。

「待って…」

「ごめん、待てない」

奥の寝室に縺れ込むように入り込む。

ベッドは朝起きた時のまま、布団も何も直していなかったが、

構わず二人で抱き合った。

何度も何度も唇を重ねて、坂下の瞳に自分の姿が映っているのが見えた時、

美和はようやく、自分がこうしたかったのだと分かった。

都合の良い女だと、坂下は呆れているだろうか。

それとも、何も考えていないバカな女だと思っているだろうか。

逆に、坂下を利用していると思われても良かった。

それくらい、この男と一緒にいることが心地よかった。

深く物事を考えないのは、良くないと分かっているけれど。


坂下の指は、身体に触れるたびに、

思考をストップさせる力があるのが悪い。



電気も付けていない暗い部屋の中、

坂下は美和を愛おしそうに抱きかかえたままの状態で、

しばらく無言で横になっていた。

エアコンも付けずにいたものだから、ひどく布団と人肌が温かい。

「…お風呂入ってくる…」

「ん…」

あっという間に、時間は夜中の2時を過ぎようとしていた。

眠そうな坂下の声が耳をくすぐった。

もしかしたら、少し眠っていたのかもしれない。

手放したくなさそうに絡む坂下の腕を振り払い、

美和は浴室へととぼとぼと歩いて行った。

朝に脱ぎ捨てた、寝巻き用のTシャツを素肌にかぶる。

頭がぼんやりとするが、幸せな余韻だと都合よく考える事にした。

悔しいけれど、逆らえない位、坂下の身体が欲しかったのかもしれない。


バスタブに湯がたまるまでの間、

好きな入浴剤でも入れようかと棚を物色していた後、

長風呂でもしてから眠ろうと考え、

バスタブで読む雑誌を取りに部屋に戻ろうとした。

「…お前の悪いクセだよ、ヤッたらヤリ逃げかよ」

「や、ちょっと待ってよ…」

下着一枚の姿で入り口を塞がれ、何となく目のやり場に困ってしまう。

さすがにまだ見慣れている程ではない。

「寒いから、オレも風呂入る」

突然の坂下の言葉に、美和は頭が付いて行かない。

「…は?何でよ」

美和の制止も聞かずに、坂下は先に浴室に姿を消した。

すぐさま、シャワーの音が聞こえてくる。

「あのさ…おかしくない?私んちなんだけど…」

浴室の扉越しに美和が訴えても、

シャワーを浴びている音でかき消されてか、返事は何もない。

代わりに、ガチャリという音をたて、浴室の引き戸が開けられる。

濡れて水滴が前髪やまつ毛に雫が付いている。

「もぉ、いいよ、開けなくて。ご自由にどうぞ」

寝巻き用のTシャツ1枚の美和は、坂下の方を見ないように、

くるりと引き返して背を向けたが、腕をすぐに引っ張られてしまう。

抗議もむなしく、坂下は意地悪そうな笑みを浮かべたまま、

美和を軽く抱き寄せ、浴室へと引きずり込む。

温かいシャワーを頭から浴びてしまい、Tシャツもびしょぬれだった。

「…悪くないね」

坂下はそう言うと、また意地悪そうな笑みを口元に作り、

美和の耳を軽く噛み、背中にキスをする。

この顔を見てしまうと、絶対に抵抗できないことが美和は分かっている。

「やっ…だめだって…」

後ろから抱きかかえられ、器用に足を広げられる。

「…ダメなら、やめとく」

するりと離した坂下の手が、指が、脇腹を通り背中を通っていく。

びくりと震える美和の身体が愛おしく、

濡れて絡みついたTシャツの上から抱きすくめた。

「……ず、るい」

泣きそうな顔で、美和は坂下を見上げる。

その訴えるような表情がとにかくかわいくて、かわいくて、

坂下はもう少し苛め抜いてやりたいという欲求に駆られてしまう。

「ヤバイね…」

完全に嵌りそうなのはこっちだよ、という言葉を飲み込み、

坂下は美和の腰を掴んだまま、何度も美和の唇を塞いだ。


シャワーの水滴で濡れているのか、それとも涙で濡れているのか、

潤んだ瞳は時折苦しそうに伏せられる。

熱い上気した吐息が、自分だけに向けられている事に、

そしてこの顔を、高岡は知らないだろうと思うと、

坂下は急に興奮してしまい、更に美和を攻め立てたのだった。


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