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俺の剣

作者: はち

《錆び付いた剣》ってあるよな。

長い間使われずにいた剣で、刃の部分が赤黒くなっちまったりして、切れ味の悪そうなアレだ。

日本にいた頃の俺は、まさにそんな《錆び付いた剣》みたいな奴だった。


何年も、自分の本気というのを出さず、テキトーに力抜いて遊びほうける。

親に迷惑ばっかかけて、何かのため、誰かのため、になんて動いたことなんか一度もなくて。

いつも一番楽な道を選択する。そんな奴だった。



「錆び付いた剣でも、キチンと研げばまた、立派な剣になりますよ」



横から、透き通った女の声が俺の耳に入ってきた。

おっと、声に出てたか・・・恥ずカチ。



「そもそも、ヨウト様が錆びているのだとしたら、この世に錆びていない人などいませんよ」



俺が自分の剣を研いでいる横で、優雅に紅茶を飲みながら彼女は言った。

彼女の名は、リーラ・エッケハルト。

その真っ白な長い髪が美しい女性。

俺が今いる国、《ユノ王国》のお姫様だ。


こんなこと言っても、訳が分からないよな。

説明しよう。

約一か月ほど前、俺は日本にある自分の家で死んだ。

死因は、栄養失調。

ずっと、飯なんてもの食ってなかったからなぁ。

そんなことは良いんだ。

とにかく、死んだと俺は思ったよ。

でも、目を開いた俺の前には、見たことがない世界が広がっていた。

濃い紫色の葉を付けた木々。

鋭い歯を持った食神植物。

そんな危険度Maxな森にいた俺。

とりあえず、森を歩き、運よく町にたどり着いた。

町は積み重なったレンガに囲まれ、しかもそのレンガの端が見えないほど町は大きかった。

町に入る門の前まで、俺は歩いた。

だが、門に入る前に俺は倒れてしまった。

空腹だ。

栄養失調で死んで、また空腹で倒れるとか、どんだけ腹減ってんだよ。

と思い、なんとか立ち上がろうとするが、無理だ。

やべ、目の前が霞んできたわ。

また死ぬのか。

そう思い始めたとき、突然現れた天使。

俺の前でしゃがみ込み、顔を覗き込んでくる中世ヨーロッパ風お姫様。

それが、リーラ様だった。


それからは、彼女の護衛として働き始めた。

命を救ってくれた彼女のために。

とてつもなく可愛い彼女に好かれるために。

必死で修業し、強くなっていった。

そして、今に至る。


最近はこの町にも馴染めてきて、知り合いも増えてきた。

でも、たまに思う。

夕暮れ時のちょっと暗くなり始めたときに、路上に映る自分の影を見つめて

日本に帰りたいな、って。



「どうしました? ヨウト様、泣いてますか?」

「えっ?」



顔に手を触れてみると、確かに涙が流れていた。

へっ、ホームシックかよ。

だせぇ。



「泣いてませんよ。これは心の汗です」

「プッ。なんですかそれは」



俺の必死の言い訳に、リーラ様は笑った。

その笑顔も可愛い。

俺はこの笑顔を守るんだ。

泣いてる場合じゃねぇな。

涙をぬぐい、剣を研ぐ作業を続ける。

リーラ様は、ひとしきり笑い終わると一変して、不安そうな顔で



「でも、なんか困ったこととかあったら、私に相談してね」



と言われた。

まずは、リーラ様に心配されない男になろう。

そう、俺は決意した。



―――――――



その夜、俺はリーラ様に与えられた自分の部屋で、考えていた。

自分の将来を。


このままでいいのか。

一生をこの世界で終えるのか。

俺の命は一度失われた。

自分の命をバカみたいなことに使って、無駄にした。

でも、気ままな神とやらが、俺にチャンスをくれた。

やり直すチャンスを。

なら、日本でもう一度生きなおした方がいいんじゃないか?

そんな考えが俺の中にはある。

でも、もう一つ。

この世界でも、死にかけた。

それを、リーラ様が救ってくださった。

日本では、誰も俺を救おうとしなかったのにだ。

そもそも、俺という存在すら認識していなかった。

なのに、リーラ様は救ってくれた。

なら、この命はリーラ様の物なんじゃないか?

リーラ様のために死ぬべきだ。

という考えがある。


どちらを選ぶべきなのか。

それはまだ、俺には分からない。


結局決断せずに、そのまま寝た。

それが災いしたのか、俺の夢に神が現れた。



「よぅ。おらぁ、神だ」

「あ、どもっ、上田さんですね」

「ちげぇよ。神。現実から目を背けんな」



ちっ。

なんか想像してたのと違うわ。

普通ここは、女神だろ。

なんで男?



「それで、神様が俺に何の御用で? 俺は忙しいんですよ。明日も訓練があって」

「ああ、それだ。お前はもう、この世界にいるな。すぐさま元の世界に帰れ」

「えっ!?」



え。

ちょっと待てよ。

どういうことだ?



「お前は元々、この世界の住人じゃねぇだろ。だから、帰れ。悪影響が出てんだよ」

「ま、待ってくださいよ。今までは大丈夫だったんでしょ? 何も言ってこなかったんだし。なら、これからも大丈夫ですって。きっと」

「やかましいよ。お前が接触した様々な人間に、少なからずの影響が出てんだよ。良しも悪しも、そいつの考えや性格にな。このままだと、この世界は戦国乱世に陥るぞ?」



そんな馬鹿な。

俺のせいで。

俺のせいでこの世界は、争いの絶えない世界になるだって?

嘘だろ。



「まあ、今すぐにとは言わんが。早急な決断を求める。この世界のためにな」



そういって、神は俺の夢から消え、俺は新たな朝を迎える。

全然寝れてねぇ。

だが、文句は言わずすぐに起きだし、着替え、3分で朝ごはんを済ます。

歯を磨き、体中を清潔にし、リーラ様の部屋へ向かう。

時間が来たら、リーラ様を起こし、着替えを手伝い、朝ごはんの用意をする。

それが終わったら、リーラ様は勉強の時間で、俺は護衛を交代する。

ここで俺は3時間ほどの自由時間を貰える。

いつもは、部屋の掃除や市場に行って冷やかしをしているのだが、今日はそんな気分になれなかった。

なんか、むかむかする。

気分を落ち着けるため、城の外の広場に行こうとしたのだが、



「やあ! ヨウト君。ちょうどよかった、君に用があったのだよ」



たまたま通りかかった、リーラ様護衛隊総隊長のヴィクソンさんに呼び止められた。

俺は特に用事がなかったので、ヴィクソンさんに付き合った。



「じゃあ、付いて来てくれ」

「え? ここじゃダメなんですか?」

「ああ、ちょっとね」



なんか、訳ありか?

連れて行かれたのは、ヴィクソンさんの部屋だった。

ヴィクソンさんはベッドに座り、俺は近くの椅子の腰かけた。



「それで、どんな用です?」

「ああ、まずは君に、護衛1番隊隊長の就任が決まった」

「マジすか!?」



護衛隊は、全部で13隊に分けられている。

その数字が低いほど、個々の強さは上がり、隊全体のチームワークも上がる。

俺は今まで、2番隊の副隊長を務めていたのだが、一気に昇格だ。

これは素直に嬉しい。



「君の頑張りはみんなが知っている。それが認められたのだ。だが、責任も増えてくる。これまで以上に精進してくれ」

「はい! ありがとうございます」

「では、初めての仕事といくか。姫様を殺せ」

「・・・はっ・・?」



・・・はは、やべっ耳が悪くなったかも。

今、姫様を殺せって聞こえた。

そんなわけないよな。ヴィクソンさんがそんなこと言うわけないって。



「日程はそちらで決めろ。姫様を殺すと同時に、城内を制圧する。これからは、俺の時代だ」



マジかよ。

俺の耳はおかしくないじゃん。

おかしいのはヴィクソンさんかよ。



「ま、待ってください。なんで、リーラ様を殺すんですか?」

「なんでだと? 決まってんだろ。姫様じゃこの国を守れない。知っているだろう? 世界は徐々に戦乱へと向かっている。姫様は優しすぎる。あのお方に争いはできない」

「それが、それがリーラ様の良いところじゃないか。そういうところを民は慕っている」

「知ってるよ。だから、邪魔なんだよ! 優しさだけじゃ国は救えない! お前は俺の部下だ。従え。じゃなきゃ、姫様もろとも殺すぞ?」



そう言い、ヴィクソンさんは俺を部屋から追い出し、扉を閉めた。

どういうことだ?

なんであの人があんなことを言うんだよ。

あんな人じゃなかったのに。

・・・・・・

まさか。



”この世は戦国乱世に陥るぞ?”

”世界は徐々に戦乱へと向かっている”



俺のせいか?

俺がこの世界にいるから。

ヴィクソンさんにも、その影響が出てあんなことを言う人になったのか?

・・・馬鹿だろ・・・


俺は部屋に戻り、ベッドに飛び込んだ。



「どうすりゃいいんだよ。・・・クソッ」



もう、訳が分かんない。

暴れだしたい。

ギャーギャー喚き散らしたい。

だが、そんなことはしない。

そんなことしたって、何にもならないから。

だが、それでも抑えきれなくなって、枕を壁にぶつけた後、コンコンッと、ノックの音が聞こえた。



「どうぞ」



扉の奥から現れたのは、リーラ様だった。



「どうしました?」

「どうしたは、こっちだよ。護衛にも来ないし。心配したんだよ?」

「・・・すいません。ちょっと考え事をしていて」

「何があったの? 私にも話して」

「それは、・・・無理です」



いくらリーラ様でも、これは話せない。

というか、話してもわかってもらえないだろう。

リーラ様は、悲しそうな顔をしている。

クッ。

リーラ様の笑顔を守るって決めたのに、心配なんかさせないって決めたのに。

思わず、拳を握りしめる。

その拳をリーラ様に見られたのか、リーラ様が両手で包み込んでくれた。



「何があったのかはわからないけど。私はずっと、あなたの味方だから」

「・・リーラ・・・さ、ま・・・」



手を伸ばした。

彼女に触れたくて。

彼女に包まれたくて。

彼女の髪に手が触れた。

サラサラだ。

美しい。

彼女だけは、殺させない。

必ず。



「リーラ様、お話があります」




―――――――




深い夜。

つまり、深夜。

夜行性でも眠るんじゃないか、という程暗い夜。

2人の男女がこそこそと歩いていた。



「こちらです。リーラ様」

「・・・う、うん・・・」



前もって調べといた、警備の薄い場所。

逃げた方向を特定されないように、いくつも作っておいた抜け道。

これで、追いかけてこようも時間がかかる。

リーラ様は、運動なんてしたこともないからな。

逃げるのには、嫌でも時間がかかる。

前もって作っておいた、しばらく使う拠点の洞穴までは、あと3日ってとこだろうな。

リーラ様の手を引いて歩いていたところに、警報の音が聞こえた。


ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウン


「なっ!? もうばれたのか? いくらなんでも早すぎるだろ」

「どうしたのですか? ヨウト様」

「脱走がばれました。俺の背中に乗って下さい」



あのクソ隊長め。

リーラ様か、俺に誰かつけていやがったな。

ちぃ、予定を進めなきゃな。

リーラ様をおんぶしながら、拠点に方へ走るさなか、今後の予定を俺は再確認した。




予定を進め、拠点には1日半で着いた。

全ルート俺がリーラ様をおぶって走ったからな。

俺の体力の問題があったが、なんとか着いた。

そこまでは良かった。

だが、アクシデントが発生した。

リーラ様が倒れたのだ。

慣れない外の環境の上に、この拠点はお世辞にも衛生環境は良いとは言えない。

状況は芳しくない。

クソッ、クソッ、クソガァッ!!

何もかもがうまくいかない。

俺はいったい、何してんだ?


ヴィクソンは宣言どうりに、城内を制圧し民衆も味方に付けた。

リーラ様を裏切り者にし、この国の共通の敵にする。

人は同じ敵を持てば、隣にいるやつを味方と認識する。

すでに国境は抑えられ、この国をしらみつぶしに探しまわされている。

時期にここも見つけられる。

なんでこうなる。俺は、人ひとり救えないのか?



「よぅ。困ってるみたいだな」



俺の前に神が現れた。



「なんだよ。もう消えろよ」

「いやいや、お前を救おうと思ってな」

「俺を?」

「ああ。その子を見捨てろ。そうすれば、日本に帰らなくていい方法を教える」

「・・・な、に・・・?」



見捨てる?

俺が?

リーラ様を?



「それとも、何か? やっぱ日本に帰りたいって? 俺はそれでもいいぜ。というか、そっちの方がいい」



日本か。

懐かしいな。

あの国最高だった。

治安だって良いし、頼べばなんだって家に届けてもらえる。

良い国だ。



「だろ? じゃ、帰れよ。お前は頑張ったって。ここまで姫さんを運んでさ。礼も言われないまま、今度は看病だぜ? 頑張りすぎだよ。お前だって帰りたかったんだろ? そういう気持ちは少なからずあったはずだ」

「ああ。確かに帰りたかった」

「そうだろ。じゃ、帰ろう。この世界に残るより、日本に帰る方がこの世界のためになるし、その子のためになる。帰りたいって言え。そうすれば帰らせてやる」



神が俺に手を伸ばしてきた。

帰りたい。

その一言で、本当に神は日本へ帰してくれるのだろう。

神はいつも、世界を想い、俺を想ってくれていた。

それは分かる。

でも・・・

どうするべきか。

そんなのはどうでもいいよ。

大切なのは、俺がどうしたいか。



「日本には、帰らない」

「なっ!? 何言っている。この世界に残れば、この世界は本当に戦国乱世になる。お前の大事なものだって、無くなるかもしれないんだぞ?」

「俺の大事なものは、いくつもない。リーラ様だけだ」

「その姫さんだって、死にそうじゃねぇか。お前がこの世界にいるから!」

「死なさねぇ。俺がリーラ様を城へ戻す」

「・・・城へ、戻す? それがどういうことか分かっているのか? この国に、戦争を仕掛けるということだぞ。たった一人で!」

「わかってるよ。でも、俺がこのまま日本へ帰ったら、リーラ様のこの髪が、真っ赤に染まるかもしれない。それだけは、許せねぇんだ」

「・・・・たった、それだけのために? お前は、命を懸けるというのか?」



たった、じゃねぇ。

俺にとって大事なのは、リーラ様が無事でいること。

リーラ様にとって、外の世界は脅威だ。

リーラ様の髪に触れる。

ガサガサだ。

前はあった艶も、今じゃ見る影もない。

城という居場所を奪われたからだ。

なら、リーラ様の場所は俺が取り戻す。

それからでも、俺が帰るのは遅くないはずだ。



「俺が消えても、この世界は変わらない。というか、俺が存在するぐらいで世界が変わるもんか。町は活気で溢れ、人がそこを流れる。季節は巡り、命は繰り返されていく。なにもかも、今までどうりだ」

「お前は、馬鹿だな」

「知ってるよ。俺は大馬鹿だ」



一瞬、神が悲しそうな顔をした。

ように見えた。

が、気のせいか。

スッと、神は消える。

時間をくれるということか。

なら、急がなきゃな。

俺はリーラ様に寄り添う。



「リーラ様、すいません。しばし、ここを離れます」

「・・・はぁ、はぁ、ヨウ、ト・・・さ、ま・・・。はぁ、はぁ、絶対に・・・帰ってきて、ください、ね」



リーラ様が俺の服をつかみ、言った。

はい。

必ず。

帰ってきます。



「はぁ、はぁ、・・・はぁ、はぁ」



待てよ。

なんか、息荒くなってないか?



「リーラ様? リーラ様!」

「はぁ、はぁ、・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ」



お、落ち着いてきた。

あぶねぇ。焦った。

脈をはかるために当てていた指を離そうとするが、



「・・・・・・」



だんだんと脈がなくなってきた。

お、落ち着きすぎだ。

なんで?

なんで今なんだ?

死ぬのか?

リーラ様が。



「リーラ様! リーラ様! 何でですか? ・・・起きて下さいよ」

「・・・・・・」

「ふざっけんなよっ!! 起きろよ!」



身体を思いっきり揺らす。

だがリーラ様の身体は、ぐでっ、となるだけだ。



「起きろって言ってんだよ!! これからだろ! これから反撃くだそうってんのに、寝てんじゃ、ねてんじゃ、ねぇよ・・・」



語尾が弱くなってしまった。

何で声が出ない。

なんか、目から水が出る。

なんでこんなに、悲しいんだろ。

おかしいよ、リーラ様。

好きな人が目の前にいるのに。

なんでこんなに、悲しいんだろ。



「リィィィィィィィィィィィィラァァァァァァァァァァァァっ!!!」



その日は、一晩中泣き続けた。




―――――――




また、朝が来た。

昨日リーラ様が死んだ。

なら、ココにいったい何があんだ?

わからない、けど、まだ帰るわけにはいかない。



「・・・死にてぇ」



もう生きている意味すらない。

けど、まだ死ぬわけにはいかない。

殺ることがある。

立ち上がり、リーラ様に寄り添う。

昨日、泣き叫んだあとにリーラ様の身体を仰向けにして、手をおなかの上に乗せ、顔についた泥などをぬぐっておいた。

死んでなお、美しい。

それは一種の芸術品のようでもある。



「では、リーラ様行ってまいります」



あいさつを済ませ、剣を取り、外へ出る。

これは、弔い合戦なんかじゃない。

単なる戦争だ。



「本当にいくのか?」



拠点を出てすぐに、神がいた。



「ああ、行く」

「もう、姫さんはいないのに?」

「だからこそだ。こんな世界なんていらない」

「俺はいるんだけどね。こんな世界でも」

「あんたは、知っていたのか? あそこで、リーラ様が死ぬことを」

「・・・ああ、俺は神だからな」



悲しそうな顔をする。

神なのに。

人間みたいな表情を作る。



「そうか」

「・・・怒らないのか?」

「起こって何になる? リーラ様は帰ってこない」

「それでも、無意味でも、行動したくなることはあるだろ?」

「今、感情を爆発させたら、止まらなくなる。それに、ぶつける相手はお前じゃない。・・・世界だ」

「世界に拒絶されるぞ?」

「その方がいい。憎まれていたい。・・・・・・それくらいでいいんだよ」



神を置いて、歩き出す。

ユノ王国に向けて。

戦争を仕掛けに。




―――――――




「まだ、見つからねぇのか!」

「す、すいません!」



ここは、ユノ王国、エッケハルト城、王の間。

一人のふてぶてしい王が、部下を叱咤していた。

王の名は、ヴィクソン・ネルネルト

最近即位したばかりの王だ。

王は焦っている。

自分の王位を奪われるのではないかと。

不安で不安で、夜も眠れないくらいだ。



「・・・王様!」

「あん? なんだ。いきなり飛び込んでくるとは、死にてぇのか?」

「すいません! ですが、一刻も早くお伝えした方がいいかと」

「ま、いい。言え」

「現在捜索中の、ヨウト・サガと思われる人物が町内へ攻め込んできました」

「なんだとっ!?」



王は、驚きすぎて手に持っていたグラスを落としてしまった。



「早くそいつをぶち殺せ! ・・・いや、殺すな! 女の居場所を聞き出せ!」

「はっ!」



報告に来た男は、令を受け、走り出していった。



「フッフッフッ。やっとだ。ヨウト君」



王のまで一人、笑い続けるヴィクソン王。

その様は、不気味のひと言だった。




―――――――




「うぅあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」



ヨウトは叫ぶ。

ひたすらに吠える。

なんでだ。

なんでこんなに思い出しちまうんだ。

リーラ様との日々を。



「うぅあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」



町に入ってすぐに兵隊たちに見つかり、それからは兵の波だ。

次から次に湧き出てくる兵隊たち。

それを無我夢中で薙ぎ払う。

この町がこの風景が、俺の記憶を刺激する。

この町を壊せば。



「がぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」



兵とともに町を破壊し始める。

家を道を世界を壊す。

感情を剣に乗せて。

そのままにぶつける。



「壊れろぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」



夢中でぶつける。

そこに現れたのは、



「てめぇ、さっさと死にやがれ! いつまで生きてんだ!」



現王、ヴィクソン・ネルネルトだった。

コイツを殺す。

コイツに、リーラ様は・・・



「お前を殺す! 俺が今を生きるために!」



ヨウトは、自分の剣で、

錆び付いた剣で、斬りかかった。


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