ヒーロー
赤く染まり沈みゆく太陽にため息が出てしまう。畏れ多くも太陽に自分の先を見たような気がして。
斜め下には両手を縄で封じられた『仲間』と言えなくもない──少なくとも同じような悲惨な未来が待っているであろう──人たちが砂漠を一列になって歩かされている。
私も誘拐されて奴隷の焼き印を入れられた直後は同じように歩かされたが、途中で足を怪我をしたので今の状況だ。
乗馬経験のない──ラクダなので乗"馬"とは言えないかもしれないけど──私は、グラグラと揺れる中、ひたすら落ちないように目の前のコブにしがみつくしか出来ない。力加減など出来ないから売られる先の街までこの腕が耐えられるかどうか自信がないとしか言えない。
完全に太陽が沈み、闇が支配を強めるのと比例して気温が徐々に下がっていく。夜の行軍は寒さに体力も奪われる為、かなり厳しい。昨夜も仲間が一人亡くなったと聞く。
それでも日中を歩くよりかはマシなので強行するしかない。
そろそろ仲間も疲労がピークを迎えているだろう。きっと今夜も誰かが亡くなる……そんな予感は絶対当たるだろう。
そう思っていた。
ふいに、後ろが騒がしくなる。怒声を上げているのはいつも手荒に扱う賊のような男たちだった。
それと共に金属がぶつかる音が鳴り響く。そしてその音は、前方からも聞こえだした。
暗く夜目のきかない私は何が起こっているのか分からなかった。近くの仲間も戸惑い、右往左往しているようだった。
ふいに上から光が降ってきた。
びっくりして上を見上げると、そこには絨毯とおぼしき敷物に乗った男がにこやかにランタンを掲げていた。
「依頼により助けに参りました。……もう大丈夫だよ。家族の所へ帰ろう」
なんで絨毯が浮かんでいるのか、なんでこの男はそんな物に乗っているのか。そんな疑問はあれども先程の言葉に泣きそうになる。仲間の中には泣いている人もいるようだった。
あぁ、これで大丈夫なんだ。
そう思った後、私の記憶はない。
少なくとも今は家族の元で治療しているとだけ記しておく。
あの男にはとんでもない借りができたが、返すには治さないとどうしようもないから。