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午前8:30。チャイムが鳴り響く。

暖かな陽光が窓から差し込み、桜の花びらを舞い散る。

窓際の席に座り、外を眺める。例年通りの暖かさ。

生徒は進級したことや進学したことを喜んでいた。

だけどみんなが私に向ける視線は違っていた。

「理事長先生の娘さんの桜様だわ」

「同じクラスだなんて光栄ですわ」

在学する海桜学園高等学校での私、鷹ノ宮麗華の立場は理事長の娘。

幼稚舎から大学までの一貫教育の海桜学園は、良家の御子息や御令嬢が通う学院でいわゆる金持ち学校といわれる学校である。

鞄から本を取り出し、読みふける。一人の生徒が私の席に歩み寄ってくる。

「あっ……あの……麗華様ですよね」

「私に何か御用ですか?」

「同じクラスになれて 光栄です。……何をお読みになっていらっしゃるのですか」

「…経営学の…入門書。母から読むように言われていて…」

「今から学ばれているのですね。そうですよね。麗華様はいずれこの学園の理事長になるのですから経営についても学ばれなくてはなりませんね」

「理事長になる?……どうしてそんな事を言うの」

「えっ、だってそうではないのですか。この学園をお継ぎになって、この学園に身をお尽くしになるのが麗華様の夢ですよね。」

私は手にしていた本を彼女に投げつけた。

「そんなの嫌!!。この学園を継ぐなんて。……学園に身を尽くすなんて。そんなの死んでも嫌!!あんな人の後を継ぐなんて…」

私は周りを見渡す。みんながわたしを見る。

「私は学園を継ぐ気も……理事長 になる気もないから…」

「でも、お父様は麗華様がお継ぎになるって」

本をかかえた生徒が口を開く。

私は彼女を力いっぱい突き飛ばした。彼女は困惑した表情で私を見ている。

「うわ〜、ひどい。」

「あんなことしなくても」

「鷹ノ宮って、実は表裏激しい奴なんだ」

どこからかする声。

「いい加減したらどうだい」

教室内に凛とした声が響く。声の主は窓に腰掛けている婚約者の九条院結城だった。

「麗華に対して跡取り話をしないでくれるかな」

「何だよ、九条院。庇うのかよ」

窓から腰を上げると結城は私に歩み寄り、自らの腕の中へと私を抱き込んだ。

「麗華はこの学園と、自分の将来の話をされるのが一番嫌いなんだ。そのことで彼女を責め立てたり、彼女を蔑んだ りする奴がいるなら、僕が許さないよ」

芯のこもった真っ直ぐな結城の言葉に周りの生徒たちは動揺し出す。

「行こう、麗華。少し別のとこにいよう」

結城は私と自分の鞄を持つと私を抱き込んだまま教室から連れ出してくれた。


たどりついたのは学園内にあるバラ園。

色取り取りの薔薇が咲き誇っているバラ園は私のお気に入りの場所だった。

荒い呼吸を繰り返す私を結城は労わるようにベンチに座らせてくれた。

「大丈夫かい。顔が真っ青だよ」

「大丈夫…。少し…取り乱した…だけだから。直に…落ち着くわ」

結城は悲しげな表情で私を見つめ、肩を優しく撫でてくれた。

「無理しなくていいよ。麗華がつらい思いをしているのは分かっているから」

「結城…。ありがとう…」

結城は優しく微笑み、私の隣に腰かけた。不意に足音が近づいてきて近くて止まった。

「たっくぅ。何処に行ったんだ、あの2人。おーい、結城、麗華嬢」

聞きなれた声に反応したのは優だった。

「京也、こっちだよ」

近づいてきたのは幼馴染の宇都宮京也君だった。茂みの向こう側にい彼は、ぐるっと回ってこちらに歩いてきた。結城と目配せをすると私の前にしゃがみ込み、顔を覗いてくる。

「真っ青な顔しちまって。近くにいたのに何も言えなくて悪かったな」

京也君は申し訳なさそうな顔で俯く。

「京也君…心配…しないで…。大丈夫…だから…」

私は切れ切れに言葉を紡いだが急に息が苦しくなり、激しくせき込んだ。結城が背中を擦ってくれるが、息苦しさは収まらなかった。

「大丈夫かい、麗華?医務室に行く?」私は軽く頷いた。立ち上がろうとしたがめまいがして座りなおしてしまった。

「無理しなくていいよ。僕が運ぶから」

そういって結城は私をお姫様抱っこで抱え上げてくれた。 京也君は、結城が持ってきた鞄を持って後をついてきた。

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