相槌
「モーリスの祖父は、ダカンレギオン族だ!」
突然、フィニアスが声を上げた。
ノートン城に戻り、
フロースから、数日間に起こった事を聞いたフィニアスは、
「公爵家に、ダカンレギオン族の者がいる」
と、子供の頃に聞いたのを思い出したのだ。
「じゃあ、どうしてモーリスは、そのことを言わなかったのかしら?」
フロースは、ノイと同じような子孫がいることを知り、嬉しく思うのだが、
モーリスの不可解な態度が腑に落ちない。
「さあ・・・色々な事情があるんじゃないのか。
デュパール公爵家の男子は、絶えてしまったからね。
モーリスは、公爵の従妹の孫で、次の後継者に決まったのはつい最近なんだ」
フィニアスは、公爵家と親しくない。
というより、今の公爵は、かなり年を取っており、
公の場に顔を出さなくなって久しく、
交友関係を広げるどころか、親しかった者たちは死んでいき減少している。
デュパール公爵は、長い間、自分のステイツを守ることに徹していた。
若者たちの出入りが少ない分、安定してると言えば、聞こえは良いが、
古い考え方に固執していると言った方が良い。
そんな中、モーリスが、次の後継者に選ばれるのだけれど、
彼の祖父は異国人だったし、母親も平民だ。
父親を早くに亡くし、畑違いのところから連れてこられた若者には、公爵の荷は重いだろう。
社交界でも、「学生なので、勉強に専念している」との情報しかなかった。
公爵すら顔を出すことが少なかったのだし、
話題にしても続かず、
「その内、現れるだろう」ぐらいのものだった。
フィニアスも、気にしていなかった。
公爵が別邸を訪れることは少なく、隣同士で揉めたこともない。
モーリスが徒党を組んで乗馬をしていると知り、驚いたぐらいで、
若者たちの些細な問題はあっても、公爵家での事なのだ。
降って湧いたように現れた公爵家の若者。
そして、フロースの娘。
ノートン城にも、春のような賑やかさが訪れたようで、
フィニアスは面白いと思うが、
フロースは、楽しむ気になれない。
フィニアスは、肩肘をついて手の上に顎を乗せ、
フロースが、あれこれ話すのを眺めている。
眺めるだけで、聞き流す。
時たま相槌を打つが、好きなだけしゃべらせる。
そうしながら、フィニアスは、不思議な気がしていた。
自分たちが、まるで、娘を心配する夫婦のようなのだ。
ニノンはまだ幼い。
十年後、自分とアデールも、このように、ニノンのことで会話するのだろうか。
いや、もし自分がフロースと結婚していたら、
ノイのような娘がいて、
モーリスに熱を上げ、
今、こうして、
フロースの話を聞いているのかもしれない。
何故、フロースを行かせてしまったのだろうう。
何故、あの時、彼女を愛しているのに気付かなかったのだろう。
彼女が自分に恋しているのに気付いていたのに、それを深く考えなかった。
むしろ、気付かないふりをしていた。
そう、わざと、自分の気持ちに気付こうとしなかったのだ。
「どちらにしても、ノイが公爵家と関係を持つなんてありえないわね」
フロースが、ため息をつきながら言った。
フィニアスは、ふふっと笑う。
「そうだな・・・弄ばれるのがオチだ」
フロースは、厳しい目をフィニアスに向ける。
「分かってるよ。
彼が大学へ戻る前に招待しよう。
一度は会っておきたいし」
フィニアスは、余計なことを言って失敗したと思い、
娘を思うフロースの真剣な眼差しに、
苦笑いしながら答えた。