表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィニアス  作者: Naoko
5/19

馬たち

 ノイは手綱を緩め、馬にバランスを取らせる。

息遣いは荒いけれど、落ち着きを取り戻しているようだ。

それでも、注意は怠らない。

荒々しく鼻息を立てている馬たちに囲まれて走っている。

乗り手は若い男性たちだが、ノイは彼らを見るより馬だけを見ていた。



 その馬たちは、林の切れ目から急に現れ、ノイの馬を驚かせ、

彼女も驚くのだけれど、

頭の中は冷静で、どうすればいいのか身体が反応していた。


落馬する者もなく、馬たちは静かになり、

ノイは、あたりを見回す。



 林の向こうから差す日の光を受けて、馬たちの汗が白く光っていた。

寒くはないのに、それが熱気となって上がっているような気がする。

土埃が舞っているせいかもしれない。


 馬たちは、ゆっくりと、無造作に、ノイの周りを動き回っていた。

歩きながら首を振っているのもいる。


 それはスローモーションの様で、馬の顔の一つ一つ、目の動きまで分かり、

大きな目で、話しかけているようにも思える。


 誰かが馬の首に手を伸ばし、軽くたたく。

ノイは、彼を見た。





 その頃、フロースは城に戻っており、

ニノンの相手をして遊ばせながら、ラーウスに残してきた子供たちを思っていた。


 ノイには、留学中の双子の兄たちがおり、下にも妹と弟が一人ずついる。

妹もノイと同じ色の目をしており、一番下の子はネイサンと同じ年だ。


 下の子たちも連れてきたかったのだけれど、

ラーウス人の子供は活発すぎるので、

ナニーを伴っても、子供を三人も連れて旅行するのは無理なのだ。

首都のエスペビオスにすら、たどり着けなかっただろう。



 ノイを連れて来るのは、さほど心配していなかった。

お腹の中にいるころから、女の子だと思えるような穏やかさがあったし、

ラーウス人の子供たちの中でも、大人しい方なのだ。

黙って考えていることが多く、本を読むのも好きだ。


 双子の兄たちが活発過ぎたので、ノイを育てるのは楽だった。

騒ぐ兄たちが、反面教師になっていた可能性もある。

そんな所は自分に似ていると思ったのに、皆は、父親似だと言う。

あの騒々しい息子たちの方が、母親似と言われるのは、理解に苦しむが、

ノイが、ラーウス意外の土地に順応しているのは嬉しいことだった。


 いや、イベリスに釘を刺されている。

彼は、ノイをラーウスの外に嫁に出すつもりはない。

それなら、「故郷を離れたわたしはどうなのよ」と思うのだけれど、

父親とは、そういうものなのだろう。





 午後遅くなって、ノイたちは戻ってきた。

ノイが興奮している。

興奮するのはしょっちゅうなので、珍しいことではない。

それでもフロースは、ノイの目に輝きから、何かが違うと感じる。



 「公爵家の、モーリス様の一行に鉢合わせしたんですよ」

セスが、馬の背中を拭きながら言った。


「公爵家?」

「はい。

 隣りには、デュパール公爵の別邸があります。

 モーリス様が、御学友たちと乗馬をしておられて、

 うっかりこちらの領地に入られ、ノイ様の馬を驚かせてしまったんです。

 モーリス様は、公爵家の次の後継者に選ばれたばかりですから、

 土地の境界を、あまりご存知ないのでしょう。

 明日、お詫びに来ると言っておられました」



 フロースは、帰りがけに見たのは、その一団だったのかと思った。


 馬の一団、

ダカンレギオン族を思わせる若者たちの集団。

ノイはそれを見て興奮したに違いない。


 ラーウスには草原が無いし、馬もいない。

騎馬民族と言っても、想像もつかない。

その民族の出だった祖母のカシアは、とうの昔に亡くなっている。

ノイにとって、それは遠い世界のことで気にもしなかった。

ところが馬に触れ、馬の集団を見て、内にある何かが呼び起こされたような気がする。



 では、モーリスは?

そのモーリスとは、どんな青年なのだろう。

ノイは?

娘は、彼に会ったことで興奮したのではと感じる。



 フロースは、明日来るという、公爵家の若き後継者に興味を持った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ