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フィニアス  作者: Naoko
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あるがまま

 フィニアスは、アデールの部屋へ向かっており、その足を速める。

彼は腹を立てていた。


それはモーリスにではなく自分に対してで、

彼の内にある葛藤が乗り移ったような気がしてならない。

モーリスとは性格も環境も違うのに、どこか似ている。


彼は、公爵になるという話がなければ、

自分の興味を趣味の域に留め、平凡な人生を歩んだだろう。

ノイとは、同じ民族の血を引く者同士として、めぐり合えたかもしれず、

そうしたら、普通に愛を育てられたかもしれない。



 もし自分が、もっと早くフロースとめぐり会っていたら・・・


彼女がノイと同じ十六歳で、

男爵家など失われてしまってもいい、

父親が自殺などせず一緒に生活を建て直してくれていたら、

自分は、もっと素直でいられたかもしれない。


「尻軽な女の所へ行け」と非難がましく言いながら、そうしていたのは自分だ。

そしてフロースに会っても、女は同じようなものだと思っていた。

ところが、そうではなかったのだ。


フロースは、あるがままに生き、駆け引きなどしない。

忘れていた自分を思い出させてくれる。

それは心地よく爽やかで・・・



そんな取りとめも無いことを考える。



 そして、妻の部屋の前まで来ると足を止めた。



もう過ぎてしまったことだ。

「もし」だなんて自分らしくない。

現実は、ここにあるのだから。



 フィニアスはドアを開けた。





 アデールは、着替えを終えるところだった。


袖のボタンを留めながら、その目に怒りの炎を忍ばせ、夫をちらりと見る。



「紅茶の染みで新しいドレスが台無しよ。

 とんでもない娘だわ。

 ああ、なんて恥をかかされてしまったのかしら」


 フィニアスは、それに答えないで椅子に座った。


「きちんとしつけられてない子って駄目ね。

 ニノンにも良い影響は無いんじゃないかしら。

 わたしたちも、出来るだけ早くノートン城に戻った方がいいかもしれないわ。

 そうそう、モーリスが一緒に乗馬をしましょうって。

 あなたもいかが?

 ネイサンも喜ぶと思うわ。

 これからは、子供たちの為にも、同じレベルの人たちとお付き合いしましょうよ」


 アデールは、しゃべり続けるのだけれど、

フィニアスが何も言わないので、苛立ちは募っていく。


「フロースにはがっかりしたわ。

 昔の面影なんて無いし、あの叔母に似てると言われても迷惑な話よね」



「フロースがディフォーレスト家を離れた時、

 あんたはニノンの年だったから、あまり覚えてないんじゃないのか?」


フィニアスが、初めて口を開いた。



 アデールは最後のボタンをはめ終わると、フィニアスの方を向く。


「あなたは良く覚えているみたいね。

 どう?

 彼女はもう若くないわ。

 あなたが、かつて愛した女性は、年を取った?」


それは、いやらしい言い方だった。



 フィニアスは顔を上げた。


アデールが、いら立っている理由は分かっている。

嫉妬だ。



「フロースは、今でも同じフロースだ。

 年と共に、その深みを増している。

 あんたこそ、いい加減にフロースの真似をやめたらどうだ?」


「そのフロースに似ているわたしと結婚したのは誰かしら?」



 フィニアスは一呼吸置き、それから彼女の方を見る。


「わたしが、そんなあんたに惹かれたのは事実だ。

 だが、必要だったのは、プリオベール家の血を残すことで、

 若くて健康な女性だったらそれで良かったんだ。

 あんだだって、フロースの真似をしてわたしに近付いたんじゃないか」



 それは、お互いに知っていながら、今まで口にするのを避けていた。

アデールは野心家だ。

そこがフロースと違う。


 フロースがいなくなった後、

彼女に似ていると言われたアデールは、彼女のように振舞って皆から可愛がられ、

そのようにして自分にも近付いてきた。


 もちろんそれに気付いていたし、全てを含めて彼女を愛せたから結婚した。

とはいえ都合が良かったのも事実だ。

彼女は、ディフォーレスト家の娘でもあったからだ。



 「自分も同じじゃないか」とフィニアスは思う。


自分も野心を抱いて、フロースを利用した。

そうして彼女を失ったのだ。


フロースのように、あるがままに生きるのとは、なんてほど遠いのだろう。



「わたしたちは似たもの同士だ。

 自分の欲しいもののためには何でも利用する。

 この結婚も、お互いの目的を達成するものではなかったのかね?」



 フィニアスがそう言うと、アデールは、顔を真っ赤にして憤る。


彼女は、フィニアスを一目見た時から恋焦がれ、

フロースの真似をしてでも彼に愛されたかったのだ。



「そのあなたが、

 公爵になろうとするモーリスへの態度は違うんじゃないのかしら?

 ノイを利用して、モーリスに取り入ることでも考えたら?

 そんなにフロースが大切なら、彼女と結婚すれば良かったのに。

 彼女は、他所の人と結婚してしまったじゃない。

 ラーウスなんて貧しい国のね!」


 フィニアスは、アデールの腕を掴んだ。 

アデールが嫉妬すればするほど、彼の心は離れていく。



「あんたが、こんなに愚かだとは思わなかった。

 ラーウスが、どんな国なのか知りもしないくせに!」


 アデールは、フィニアスの手を振り払うと反動で後ろへ下がった。

そして彼を見る。


「残念ね。フロースが、あなたを愛することは無いわ」



 フィニアスは、うんざりしてしまった。



「好きにするんだな」


そして彼女に背を向ける。



「どこへ行くの!?」


「エスペビオスに戻る。

 あんたは、ここにいるなり、ノートン城に帰るなり、したいようにすればいい」


 フィニアスは、それだけ言うと、勢い良くドアを閉めた。



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