表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィニアス  作者: Naoko
12/19

 ティーカップや皿は音を立てて割れ、

周りは騒然となり、

ノイはアデールに飛び掛ろうとする。


そして動きが止まった。


フロースが、間一髪でノイを止めたのだ。



 ノイは、自分を抱きかかえている母親を見て我に返る。


周りの人々の驚いた表情からも、

自分が、とんでもないことをしたのだと分かる。


モーリスも、目を丸くしている。



ノイはいたたまれなくなり、その場から逃げ出してしまった。




 それは、あっと言う間のことで、

そこにいた人々は、何が起きたのか理解できないほどだった。


ノイがアデールに飛び掛ろうとしたのも、

お茶やケーキが、アデールの美しいドレスを汚してしまったので、

あわててそれを直そうとしているようにも見えた。


例え、ノイがアデールの言ったことを気に入らなかったとしても、

この娘が、人前で喧嘩するなど思いも寄らない。


人々が見ていたのは、ノイではなく、ひっくり返されたテーブルの方だった。




 フロースは皆に謝り、ノイの後を追った。

そうしながら自分を責める。


娘の気性を知っていたのに、と思った。



 ノイは、激しい性格で知られているラーウスの子供たちの中でも、大人しい方だった。

旅行中、何度も話し合ったし、

それに良く答えてくれて、問題を起こすことはなかった。

だから油断してしまったのだ。


今日は、自分の両親にとって、

何より、

娘にとって大切な日だったのに、と悔やまれてならない。




 ノイの部屋のドアを開けると、泣き声が聞こえてきた。


ベッドにうつ伏せになって泣いているらしい。


「お婆様と一緒に選んだ」と誇らしげに言っていたドレスが小刻みに震えているのが見え、

少し前まで、それを着て嬉しそうだった娘の顔が思い出される。




 フロースは、ノイがアデールの言ったことに怒ったのだと分かっていた。

それでも、やってしまったことの責任は、自分で負わねばならない。



 フロースは娘の傍らに座り、その髪をなでる。

そして言った。


「お客様たちには、ママから謝っておいたわ。

 テーブルクロスが絡まってしまったと言い訳したけれど、

 お爺様とお婆様には謝った方がいいわね。

 あなたの気持ちも分かるけれど、ここはラーウスとは違うの。

 その事は何度もあなたに言ったでしょう」


 ノイが顔を上げた。

フロースは、娘の髪を整え、涙をぬぐう。


 ノイは後悔している。

きっと、「自分の人生はこれで終わりだ」ぐらいに思っているに違いない。

これから先、失敗はいくらでもあるのに、そんなことなど考えもしない。

自分に出来るのは、それを解決する方法を共に考えてやることだけなのだ。




「一人で誤りに行く? それともママに付いてきてもらいたい?」


ノイは頭を振った。


フロースは、どっちなのだろうと思う。


「一人で行けるの?」


すると、ノイは口を開いた。



「ママ・・・あのね・・・えっとね・・・

どうしよう・・・わたし、モーリスに嫌われたかも・・・」


そして、フロースに抱きついて声を上げて泣く。




 フロースは、ノイの涙はそのことだったかと思った。

そして娘の背中に手を回し、赤子をあやすように優しく叩く。


「泣いたらいいわ。

 ママもパパに嫌われたと思って、泣いた事が何度もあったのよ」


ノイは顔を上げる。


「ママが? パパを殴ったの?」


ノイが真剣な顔をして聞くので、

フロースは笑い出しそうになる。


ノイは成長したように見えても子供なのだ。



 ノイの初めての恋。

恋をすると、涙を流すこともある。



 フロースは、ノイの恋は叶うはずは無いと思っていたので、

自分とイベリスのことは、ノイとは違うのだけれど、

今まで、そんなことを話したことは無かったなと思った。


 いい機会かもしれない。



「いいえ、そうじゃなくて・・・」


フロースはそう言って、話し始めた。



フロースとイベリスの恋物語は、長いので、ここでは割愛します。


もし、お読みになりたい方がいらっしゃれば、

「イベリス」

http://ncode.syosetu.com/n3994v/

へどうぞ。


この話のネタバレになるかもしれませんが、

読み終わる前に、この話の方が先に終わるでしょう。


また、読まなくても、この話に差し障りはありませんので、ご安心ください。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ