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『空のした』【掌編・SF】

作者: 山田文公社

『空のした』作:山田文公社


「現在ポイント347、120にて航行中、まもなく未開拓惑星と到着します」

 女性の声、デジタルナビゲーターが現在の宇宙座標を告げた。男のつけるモニターグラス(眼鏡上の情報を表示するモニター)には現在の航路と次に到着する惑星への立体地図が表示されていた。人類が宇宙へと足を踏み出したのが今から20年前の話しで、それからまもなく多くの星を植民地化していた。おそらくはあと数十年もしないうちに惑星と宇宙の領域を争って戦争にでもなりそうだが、今は実に平和そのものであった。

 実のところもう資源は充分に確保され資源の枯渇の事は忘れ去られ、宇宙への進出の大半は収集家達へと売り物を探す旅へと変わっていた。だがしかし男は違った。

「未開拓惑星の空中成分と、生物驚異レベルを測定してくれ」

「了解しました」

 男の指示にデジタルナビゲーターが答えると、船に搭載された、地表測定器を乗せた観測用のポッドが地上へと投下された。ポッドには環境学習対応型の人工知能を搭載したロボットと、測定器具に繋がれたマウスがゲージへ押し込められていた。これからしばらく惑星軌道周回で地上から送られてくるデーターを元に開拓可能か、つまり惑星に降りる事が出来るのかを調べるのだ。

 未開拓の惑星はとても綺麗な惑星だった。かつての映像記録に残る地球と同じように、青々とした海が未開拓惑星の大半を覆っていた。

 そしてもうひとつ人類が探している物がある。

 それは人類の過ち故に求めるべき場所…そう移住地である。

 母星(地球)の誰もが新たな新天地を求めていた。地球の環境破壊はもう取り返しのつかない所まで深刻な状態で、誰もが諦めて新たな移住先を検討している。だから男は銀河の最果てまでやってきたのだ。無論見つけた報酬は相当に良いので、誰もが探しているのだが、未だにひとつも見つかっていない。

 見つかった惑星は自然が人間に適応しておらず、とても移住出来る環境ではなかったが、時折『○○の座標で適合環境を発見!』と言った見出しでニュースになるが、ウィルスや細菌、大気の比率や地上の到達する電子線の被爆量など、数多くの問題があって、そのどれもが、ぬか喜びに終わり移住を果たせないでいた。

 しかしようやく見つける事が出来たと、人類が移住して第二の母星として暮らして行けると、そんな確信が男にはあった。一週間毎に地上からデーターが送られてくる。大気の比率と地上へと太陽光線の被爆量は母星の過去のデーターと比較してもほぼ変わらなかった。成分分析上はウィルスや細菌は確認出来なかった。人間の遺伝子に人工的に似せて作られた人工ラットの測定値も異常は無く、血液検査成分も概ね問題は無かった。


『やった、やったぞ!』


 男は世紀の発見に心躍っていた。採集したデータの結果は全て問題なかった。それから念をおして、もう一週間記録し、一ヶ月経って記録を確認したが、特に問題なかったので発表に踏み切った。


 その発表に誰もが期待するはずだった…しかし誰も期待も見向きもしなかった。理由は前例が多すぎたからだ。どうせ移住出来ないという肩すかしを何度もくらい期待が起きる事は無かった。


 地上から送られてくるデーターは人類が普通に生活出来るのを確証していた。

 

「何故誰も来ないんだ!」


 どれだけ待っても返事もしない母星の調査団に苛立った。男は壁を叩き怒り、一人で地上へ降りる決心を決めた、そうして一人開拓惑星へと降りた。そこには見渡す限りの自然に溢れかえっていた。しばらく男は地上で目の前に広がる自然に見とれていた。


「なんて美しいんだろうか」


 地球がこれを失ったのかと思うと、遙か以前に地上から自然が消え失せたあの日から、今ここにこんなに溢れる緑全てを失ったのだと思うと男は『人はなんと罪深い生き物なのだろうか』と思った。男は目の前に広がる自然を目に焼き付けながら、人が移住出来る事を知せるべきではないのではないかと思い始めた。

 

 風が吹くと長い緑の穂と白い穂先が揺れる中で、辺りの自然を眺めていた。荒涼とした宇宙の中にこんなに緑が溢れている奇跡。男は奇跡を感じる事にした。人は自然に生き自然に死ぬからこそ、この奇跡を見る事が出来るのだと思うようになった。結局男は未開拓の惑星の情報を知らせる事はなかった。

 空には星が輝いて、風に揺れる白い穂先を照らしている。見上げると漆黒と星々が散りばめられていた。見上げれば黒い宇宙、目の前には緑溢れる自然、どれだけ遠くに来ようとも自然と共に生きているのだと男は空を見ながら知る。煌々輝く星の下で…。

お読み頂きありがとうございました。

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