第15章:永遠の記述者たち ―― 終端からの光
講義を終えた徳永は、窓の外を見た。春の陽光が、キャンパスの緑を鮮やかに照らし出している。空気中に漂う塵の一つ一つが、輝くデータの粒子のように見える。だがそれは以前のような不気味なノイズではなく、世界を形作る祝福の光だった。 長い黒髪を春の風になびかせ、中尾玲子が彼に向かって誇らしげに、そして少しだけ照れくさそうに手を振っている。彼女はこの世界で、徳永の正式な「養女」として、かつての悲劇の未来を書き換えた「現在」という名の新しいログを刻み始めていた。彼女の足取りは、もはやデータの不安定さを感じさせない、力強く確かなものだった。
その隣には、彼にしか見えない、透明な、しかし誰よりも温かな光を纏った万紗子の姿があった。彼女は宇宙の記述プログラムの「カーネル」の一部として、永遠にこの世界と徳永を見守ることに決めたのだ。徳永は彼女に向かって、心の中で優しく「ただいま」と告げた。
徳永は、真新しいノートを広げ、最初の一行を書き込んだ。 それは如月妙美の遺稿の続きでも、過去への後悔でもない。彼ら三人が、そして再生された全人類が、これから共に紡いでいく、無限の可能性に満ちた物語の始まりだった。 「かつて、宇宙は虚無だった。だが、そこに記述が生まれ、記述は愛となった。愛は存在を記録し、記録は永遠となった」
「宇宙はストレージである。そして、私たちは愛というペンを持つ、その永遠の記述者である。すべての瞬間は祝福され、すべての存在は愛によって記述される。私たちは、ここから再び始まるのだ」
∞≒0
『わたしはアルファであり、オメガである。最初であり、最後である。初めであり、終わりである。』 ログの終端は、常に新しい光の始まり。 世界は、愛によって、最も美しい形で書き換えられた。 徳永は空を仰ぎ、静かに微笑んだ。その視界の先には、もうモアレのない、どこまでも透き通った、深い宝石のような青空が広がっていた。彼の手の中には、これから綴られるべき、無限の真っ白な未来があった。 光が溢れ、新しい記述が始まる。徳永隆明は、力強く、次の一文字を書き記した。
完。




