表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/40

第9話|初クエスト

冒険者ギルドの掲示板は、想像以上に地味だった。


魔王討伐も、秘宝探索もない。


貼られているのは――


・薬草採取

・荷運び

・街道の見回り

・害獣の追い払い


「……現実的すぎるだろ」


[初見の神]『日雇い』

[観測者アレス]『異世界労働』


「言い方最悪だな」


だが、選り好みできる立場でもない。


今の俺は、装備なし・金なし・実績なし。


新人向けの雑務から始めるしかなかった。


「街道見回り……これでいいか」


内容は単純だ。


街の外周にある旧街道を歩き、

魔物や異常がないかを確認する。


討伐義務はなし。

異変があれば、即帰還。


初心者用としては、かなり安全な部類らしい。


受付で木札を受け取り、門を出る。


朝の街道は、思ったより穏やかだった。


行商人の馬車。

畑仕事をする農民。

遠くで鳴く鳥の声。


昨日までの死線が、嘘みたいだ。


「……平和だな」


[観測者アレス]『フラグ』

「立てるな」


歩きながら、周囲を観察する。


草の揺れ。

地面の足跡。

遠くの森の気配。


全部が未知だ。


だが、配信をしているおかげか、視点が自然と整理されていた。


危険を実況する癖。


状況を言語化する癖。


前世で身につけたものが、思わぬ形で役に立っている。


「右は森、左は開けてる……」


[初見の神]『左安全』

[観測者アレス]『右は索敵注意』


「……指示出るの早いな」


神たちのコメントが、次第に“指示厨”になりつつある。


最初は鬱陶しかったが、完全に無視するのも違う。


全部聞く必要はない。


だが、選択肢が増えるのは事実だ。


「参考にはする」


そう言って、歩調を緩める。


そのときだった。


足元の小石に、つまずいた。


「っ……!」


前のめりになった身体が、思ったより大きく傾く。


転ぶ――そう思った瞬間。


ぐらりとした視界が、わずかにズレた。


まるで、世界が半歩だけ横にずれたような感覚。


次の瞬間、体勢が戻っていた。


「……今の、何だ?」


[観測者アレス]『出た』

[初見の神]『小回避』


スキル欄が、淡く点滅する。


【小回避】発動


「……あ」


避けたのは、攻撃じゃない。


ただの転倒。


それでも、確かに“外れた”。


致命的になり得た一瞬を、ほんのわずかに逸らした。


派手さは皆無。


だが――実感できる。


「地味だけど……効くな、これ」


[300年ROM専]『死なないスキル』


歩き直し、街道を進む。


すると、前方の草むらが不自然に揺れた。


小さな影が、二つ。


「……来たか」


ゴブリン。


昨日聞いた通り、最弱クラスの魔物。


とはいえ、武器を持つと話は別だ。


「討伐義務はない……帰るか?」


[初見の神]『逃げ推奨』

[観測者アレス]『初日は無理しない』


正論だ。


だが、ここで逃げ続ければ、何も始まらない。


「……一体だけなら」


足音を殺し、距離を測る。


近づきすぎた瞬間――


"パキ"


枝が折れた。


ゴブリンがこちらを向く。


甲高い叫び声。


「っ!」


棍棒が振り下ろされる。


反射的に身を引く。


ギリギリ。


頬をかすめる風圧。


【小回避】が、再び発動した。


完全に避けきれなかったはずの一撃が、わずかにズレる。


「……今だ!」


地面の石を掴み、全力で投げる。


直撃。


ゴブリンが怯んだ隙に、全力で距離を取る。


もう一体が現れたのを見て、即撤退。


「無理無理!」


走る。


心臓が爆発しそうになる。


だが、背中を叩く棍棒は――届かなかった。


街道の境界線を越えたところで、追撃は止んだ。


息を切らしながら、振り返る。


生きている。


討伐はしていない。


だが――


「……初クエスト、クリアでいいだろ」


依頼内容は“異常なしの確認”。


異常は、あった。


ちゃんと報告できる。


[初見の神]『生還えらい』

[観測者アレス]『判断◎』


神のコメントに、少しだけ胸が温かくなる。


無茶はしなかった。


だが、逃げただけでもない。


「……悪くない一日だな」


冒険者としての、最初の仕事。


英雄には程遠い。


それでも確かに一歩前へ進んだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


面白いと思っていただけたら、

★評価・感想・ブックマークで応援してもらえると励みになります。


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ