第8話|街での朝
朝の光で目が覚めた。
正確には、眩しさで目を開けた。
「……明る」
石造りの建物の隙間から差し込む朝日が、思った以上に強い。
夜を越えた街は、静寂よりも生活音に満ちていた。
パンを焼く匂い。
木箱を運ぶ音。
どこかで鳴る鐘。
異世界だということを、改めて思い知らされる。
壁にもたれたまま一晩を明かしたが、体調は悪くなかった。
若返った身体のおかげか、疲労の残りも少ない。
視界の端を確認する。
《神観測ストリーム:ON》
コメントは、すでに流れていた。
[初見の神]『おは』
[観測者アレス]『野宿配信助かる』
「助かるって何だよ……」
配信が当たり前になりつつある自分に、少し苦笑する。
とりあえず、今日は街を回る必要がある。
金。
仕事。
情報。
どれも欠けている。
「まずは、ギルドだな」
冒険者ギルド。
昨夜、衛兵に軽く聞いて知った存在だ。
仕事を斡旋し、魔物討伐や護衛を請け負う組織。
この世界で、外の危険と向き合う者たちの拠点。
通りを進むと、すぐに見つかった。
巨大な木製の扉。
交差した剣の紋章。
中へ入った瞬間、空気が一変する。
酒と汗の匂い。
武器の金属音。
荒い笑い声。
「……うわ、想像以上だな」
朝だというのに、人で溢れていた。
鎧姿の冒険者。
ローブを着た魔術師。
明らかに只者じゃない気配の者もいる。
視線が、一斉にこちらへ向いた。
装備なし。
軽装。
しかも妙に落ち着きすぎている。
浮くな、これは。
[初見の神]『完全初心者』
[観測者アレス]『裸同然』
「言うな」
受付らしきカウンターへ近づく。
そこに立っていたのは、赤髪の女性だった。
鋭い目つきだが、仕事慣れした落ち着きがある。
「冒険者登録か?」
「はい。今日来たばかりで」
「身分証は?」
「ないです」
即答したら、少し睨まれた。
「……まあ、そういうのもいる」
ため息交じりに、木札を差し出される。
「名前」
「ユウト・クロセ」
書き込むと、彼女は淡く光る水晶を取り出した。
「手を乗せろ。簡易測定だ」
言われるまま触れる。
ひんやりとした感触。
水晶が光り、文字が浮かび上がった。
周囲が、ざわつく。
「……ん?」
受付嬢が、眉をひそめた。
「どうかしました?」
「職業なし。加護なし。称号なし」
「まあ、そんなもんですよね」
「問題はここだ」
彼女が指差す。
スキル欄。
【神観測ストリーム】
【小回避】
……空気が変わった。
周囲の冒険者が、露骨に顔をしかめる。
「見たことない名前だな」
「聞いたことねえ」
「観測……?」
受付嬢も、困惑したように首を傾げた。
「効果が読めん。登録はできるが、危険度判定が出ない」
「つまり?」
「新人向けクエストは、推奨できない」
なるほど。
未知のスキルは、危険扱いらしい。
[観測者アレス]『普通そうなる』
[初見の神]『異物すぎ』
「……じゃあ、どうすれば」
「雑務からだ。荷運び、採取補助、街周辺の見回り」
いわゆる下積み。
華やかさの欠片もない。
だが今の俺に、文句を言う資格はない。
「それでお願いします」
木札が渡される。
簡素な冒険者証だった。
「命を大事にしろ。ここは英雄の墓場でもある」
その言葉だけが、やけに重かった。
ギルドを出ると、朝の街が眩しかった。
英雄。
魔王。
世界を救う話は、どこか遠い。
今の俺は、ただの無職だ。
「……地道にいくしかねえな」
コメント欄が流れる。
[初見の神]『日常回』
[観測者アレス]『でもここ大事』
分かってる。
派手な力はない。
だが、確実に物語は進んでいる。
配信を切るか、一瞬迷って――やめた。
見られている方が、気が楽だったから。
「さて」
冒険者証を握りしめ、歩き出す。
異世界二日目。
配信者は、今日も生き延びる。
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