第58話|奪還
噛み合った感覚は、続いていた。
世界がゆっくりになったわけじゃない。
ただ、余計な遅れが消えた。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『戻ったな』
敵の踏み込み。
間合い。
刃の角度。
すべてが、
半拍手前で理解できる。
ユウトは、深追いしない。
倒しにいかない。
削りにいかない。
通す。
《神観測ストリーム》
[観測者アレス]『目的が明確だ』
一体を弾く。
二体目を牽制する。
敵は、相変わらず退かない。
だが――
止めきれなくなっている。
セラが、息を合わせて前に出る。
斬るためじゃない。
道を作るため。
《神観測ストリーム》
[地形厨ヘカトン]『中央、割れた』
その奥。
人影が見えた。
縛られている。
動かない。
だが、
生きている。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『いた!』
敵の動きが、変わる。
こちらを削るより、
遮る動き。
明確だ。
――奪還されるのが困る。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『目的、完全に割れたな』
ユウトは、即座に判断する。
「セラ、左。
俺、真っ直ぐ行く」
指示じゃない。
選択の共有だ。
セラは、一瞬も迷わない。
「了解」
《神観測ストリーム》
[観測者アレス]『役割分担が速い』
セラが、強く踏み込む。
敵の注意が、
一瞬だけ逸れる。
その隙を、
ユウトは見逃さない。
踏み込む。
刃は振らない。
身体を入れる。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『距離詰めた』
縛めを断つ。
力じゃない。
位置と角度。
一息。
縄が、落ちる。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『外れた!』
失踪者の一人が、
崩れ落ちる。
もう一人も、すぐ隣。
意識は薄いが、
呼吸はある。
――奪還成功。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『完遂』
敵が、動きを止める。
一斉ではない。
だが、確実に。
これ以上続けても、
目的は果たせない。
敵は、
戦いを維持する理由を失った。
《神観測ストリーム》
[慎重派の神]『合理的だな』
数体が、後退する。
追わない。
追う理由がない。
ユウトは、失踪者を背にかばう。
セラも、同じ。
《神観測ストリーム》
[観測者アレス]『撤退判断は向こうだ』
森が、静まる。
気配が、引く。
完全に消えたわけじゃない。
だが――
今日は、ここまでだ。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『勝ちだ』
ユウトは、剣を下ろす。
息を整える。
疲労はある。
傷もある。
それでも、
失ったものはない。
失踪者は、
両方とも生きている。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『普通にすごいことしてる』
セラが、静かに言った。
「……助けられたね」
「ああ」
それだけで、十分だった。
敵は倒していない。
拠点も壊していない。
だが――
境界を越えて、連れ戻した。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『神回だ』
ユウトは、森の奥を一度だけ見る。
次は、
同じやり方じゃ通らない。
そう確信していた。
それでも――
今日、ここで踏み込んだ意味は大きい。
人を、取り返せた。
それが、すべてだ。
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