第57話|ずれ
噛み合っていない。
それだけは、はっきりしていた。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『……通らないな』
ユウトの剣は、当たっている。
セラの斬撃も、浅くはない。
だが、
敵の動きは落ちない。
踏み込みの速さ。
戻りの正確さ。
どれも、
こちらより一段、安定している。
《神観測ストリーム》
[観測者アレス]『均衡が崩れきらない』
[慎重派の神]『このままだと削られる』
ユウトは、息を整えようとして気づく。
整わない。
腕の疲れじゃない。
集中が、分断されている。
敵の動きが、
わずかに読めない。
その「わずか」が、
致命的だった。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『ズレてる』
セラの剣が、
いつもより半拍遅れる。
それを見て、
ユウトが前に出る。
受ける。
弾く。
――重い。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『あ、これ嫌なやつ』
敵は、下がらない。
追い込まれても、
引く気配がない。
ここが、
終点として設計されている。
ユウトは、瞬間的に理解した。
この戦いは、
力でひっくり返す形じゃない。
状況が、少しだけ足りていない。
《神観測ストリーム》
[観測者アレス]『何か一つ、足りないな』
刃が交わる。
また、僅差で外れる。
そのとき、
視界の端で数字が揺れた。
意識しなくても分かる。
――溜まっている。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『あ、今それ見る?』
[300年ROM専]『……自然だな』
ユウトは、思考を切り替えない。
焦りもしない。
理由づけもしない。
ただ、
今の状況に合う手段を選ぶ。
視線を外さないまま、
意識だけをそちらに向ける。
《神観測ストリーム》
――ガチャ実行。
光は、一瞬。
戦場の音は、消えない。
《神観測ストリーム》
[戦術屋ヘルメス]『来たな』
[地形厨ヘカトン]『即効性あるやつ頼む』
次の瞬間、
世界の見え方が、少しだけ変わった。
速くなったわけじゃない。
強くなったわけでもない。
判断が、詰まらなくなった。
敵の踏み込みが、
「来る前」に分かる。
刃の角度が、
「振る前」に見える。
《神観測ストリーム》
[観測者アレス]『認識補正だ』
ユウトは、
今までと同じ動きをする。
同じ間合い。
同じ踏み込み。
――なのに、
刃が当たる。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『ズレが解消された』
セラが、即座に反応する。
今まで通らなかった角度。
今まで届かなかった距離。
刃が、深く入る。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『普通に流れ変わった!』
敵の動きが、
初めて乱れた。
大きくじゃない。
ほんの一瞬。
だが――
十分だった。
ユウトは、息を吐く。
これは、逆転じゃない。
噛み合っただけだ。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『判断が戻ったな』
[観測者アレス]『元の精度だ』
戦闘は、
まだ続いている。
だが、
続けられる形になった。
ユウトは、剣を構え直す。
次は、
この流れを切らさない。
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