第54話|追跡開始
追跡は、速さじゃない。
位置と順序だ。
ユウトは、消えた足跡の地点からすぐには動かなかった。
森へ向かう道でもない。
外縁をなぞる線の先でもない。
まず、周囲を見直す。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『ついに追うぞ!』
[戦術屋ヘルメス]『初追跡だな』
[300年ROM専]『……急ぐな』
足跡は消えている。
だが、消え方が一様だ。
踏み荒らされてもいない。
隠蔽も雑じゃない。
「……ここから、別の“手段”に切り替わってる」
ユウトの独り言に、セラが頷く。
「歩かせるのをやめた、ってこと?」
「ああ。
ここまでは“歩かせた”。
ここから先は、別だ」
《神観測ストリーム》
[観測者アレス]『工程が切り替わったと見たか』
[地形厨ヘカトン]『運搬フェーズだな』
森へ向かう足跡はない。
だが、
森に入らなかった痕跡もない。
それが、一番の違和感だった。
ユウトは、外縁を横切る細い獣道に目を向ける。
人が使う道じゃない。
だが、“通れる”。
《神観測ストリーム》
[戦術屋ヘルメス]『正規ルートじゃない』
[慎重派の神]『嫌な道だ』
「こっちだ」
断言ではない。
だが、選択は迷わなかった。
セラも、何も言わず後ろにつく。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『もう戻れない選択』
森の空気が変わる。
昨日までの“観察されている感覚”とは違う。
歓迎も、警戒もない。
ただ、静かだ。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『あれ、コメント減ってない?』
[300年ROM専]『……静かに見ろ』
足を進めるごとに、
音が吸われていく。
枝が折れない。
葉が擦れない。
誰かが、
通るために整えた森だ。
《神観測ストリーム》
[地形厨ヘカトン]『踏み跡、誘導用だ』
[観測者アレス]『自然を使った通路だな』
セラが、声を落とす。
「……ここ、戦場じゃないね」
「ああ。
動線だ」
戦う場所じゃない。
運ぶ場所だ。
《神観測ストリーム》
[戦術屋ヘルメス]『目的地が別にある』
少し進んだところで、
ユウトは立ち止まる。
空気が、わずかに冷たい。
そして――
人の匂いが、二つ。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『来た』
[300年ROM専]『……捕まってるな』
生きている。
それだけは、分かる。
叫び声はない。
助けを求める声も。
意識は、あるか分からない。
ユウトは、深く息を吐いた。
ここから先は、
判断一つで全てが変わる。
《神観測ストリーム》
[慎重派の神]『戦闘になるぞ』
[観測者アレス]『判断を急ぐな』
ユウトは、セラを見る。
「音、立てない。
戦うなら――合図は俺」
指示じゃない。
共有だ。
セラは短く頷いた。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『息が合ってる』
木々の隙間。
視界の向こう。
まだ、敵の姿は見えない。
だが、
もう盤の中だ。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『ここから神回候補!』
[300年ROM専]『……静かに見ろ』
ユウトは、一歩だけ前に出た。
追跡は、
ここからが本番だ。
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