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第52話|線が動く

 異変は、昼前だった。


 鐘は鳴らない。

 悲鳴も上がらない。


 ただ、

 人が戻ってこなかった。


《神観測ストリーム》


[今日も暇な女神]『あっ』

[300年ROM専]『……来たな』


 外縁の見張り台から連絡が入る。


 街道沿いの小屋。

 薪を取りに行った若い男が、帰っていない。


 場所は、森のすぐ外。

 だが――

 森の中ではない。


《神観測ストリーム》


[慎重派の神]『線、越えた』


 ユウトは即座に動いた。


 ギルドを経由しない。

 指示も待たない。


 現場に向かう途中、

 頭の中で条件を並べる。


 ・昼

 ・単独行動

 ・森の外

 ・被害報告なし


 偶然では、起きにくい。


《神観測ストリーム》


[観測者アレス]『即応判断だ』

[戦術屋ヘルメス]『待たなかったな』


 現場は静かだった。


 小屋は壊れていない。

 薪は半分ほど残っている。


 争った形跡もない。


 ただ――

 足跡が、途中で消えている。


《神観測ストリーム》


[地形厨ヘカトン]『不自然な消え方』

[300年ROM専]『連れて行かれたな』


 セラが、低く言う。


「引きずった跡、ないね」


「ああ。

 自分で歩いてる」


 それが、一番嫌だった。


《神観測ストリーム》


[今日も暇な女神]『嫌すぎる情報』


 足跡は、

 森へ向かっていない。


 外縁をなぞるように、

 横へ、横へと続いている。


《神観測ストリーム》


[地形厨ヘカトン]『完全に線上』

[戦術屋ヘルメス]『誘導だな』


 ユウトは、そこで止まった。


 追える。

 だが、追わない。


 ここから先は、

 昨日までと意味が違う。


《神観測ストリーム》


[慎重派の神]『踏み込めば戦闘だ』

[300年ROM専]『……判断どころだ』


 ユウトは、視線を上げた。


 周囲を見渡す。

 地形。

 距離。

 人の数。


 そして――

 時間。


「ここで追えば、

 向こうの盤に乗る」


 誰に言うでもなく、呟く。


《神観測ストリーム》


[観測者アレス]『状況を切り分けている』


 代わりに、ユウトは街道側へ戻る。


 見張りを増やす。

 人を下げる。


 被害を、広げない。


《神観測ストリーム》


[戦術屋ヘルメス]『守りを選んだか』

[今日も暇な女神]『え、追わないの!?』


 ギルドへの連絡は、短く。


「外縁で失踪一件。

 森の外です」


 それだけで、十分だった。


《神観測ストリーム》


[300年ROM専]『判断が重い』


 夕方、

 失踪した男は戻ってきた。


 歩いて。


 怪我はない。

 意識もはっきりしている。


 ただ――

 何も覚えていない。


《神観測ストリーム》


[今日も暇な女神]『戻ってきた!?』

[慎重派の神]『だが安心できない』


「音がして……

 気づいたら、ここにいた」


 それだけだった。


 恐怖も、痛みも、語らない。


 それが、異常だった。


《神観測ストリーム》


[300年ROM専]『実害、確定』


 ユウトは、男を見送ったあと、

 一人で外縁に立った。


 人を殺していない。

 物も壊していない。


 だが――

 線は、確実に動いた。


《神観測ストリーム》


[観測者アレス]『次は選ばせない可能性がある』


 これは、警告だ。


 森の問題じゃない。

 街の問題でもない。


 境界そのものが、書き換えられ始めている。


《神観測ストリーム》


[300年ROM専]『もう後戻りはできない』


 ユウトは、深く息を吐いた。


 怖い。

 だが、目は逸らさない。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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