第41話|突破口
包囲は、すでに完成しかけていた。
数ではない。
配置だ。
森の起伏、木の密度、視界の切れ目。
それらを踏まえた位置取りが、円を描いている。
逃げ道はない。
少なくとも、最初から用意されたものは。
セラは俺の左斜め前。
距離は近い。声も届く。
合流は済んでいる。分断されていない。
それだけが、唯一の救いだった。
金属が擦れる、短い音。
合図だ。
次の瞬間、
四方の気配が、同時に動いた。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『……空気変わったな』
[地形厨ヘカトン]『完全に囲みに来てる』
[観測者アレス]『個体判断ではない』
[今日も暇な女神]『はい最悪』
魔物が来る。
だが、突っ込んでくるわけじゃない。
距離を詰め、止まり、
こちらが動けば、同じだけ動く。
セラが低く言う。
「……来る数、調整してる」
「うん。出しすぎない」
嫌な動きだ。
だが、理屈は分かる。
最初の一体を切る。
次の一体を押し返す。
倒せる。
だが、前線が下がらない。
《神観測ストリーム》
[地形厨ヘカトン]『線、まったく崩れない』
[戦術屋ヘルメス]『削り合いに持ち込んでるな』
[慎重派の神]『この形、消耗負けする』
魔物同士が、互いを邪魔しない。
被らない。乱れない。
――誰かが、まとめている。
《神観測ストリーム》
[観測者アレス]『前線管理が入っている』
[300年ROM専]『数字が重い』
[今日も暇な女神]『これ普通に長居したら死ぬ』
セラが一歩、前に出る。
予定通りだ。
「右、来る!」
「分かってる!」
俺は前に出ない。
セラの横に並び、線を保つ。
押し返さない。崩さない。
包囲が、確実に狭まっていく。
その途中で、気づいた。
――詰める速度が、一定じゃない。
こちらが下がると、
一瞬だけ、詰めが遅れる。
《神観測ストリーム》
[地形厨ヘカトン]『今、右側ズレた』
[観測者アレス]『統率が一拍遅れたな』
[慎重派の神]『一瞬だけだぞ』
セラの足が止まる。
囲まれかけた。
「下がれ!」
声を張る。
同時に、俺が一歩踏み込む。
斬る。
合流するだけ。
その瞬間。
前線の一部が、わずかに乱れた。
《神観測ストリーム》
[戦術屋ヘルメス]『今だ』
[300年ROM専]『……一瞬だけ開いた』
理由は考えない。
説明もしない。
判断する。
「セラ、走る!」
「了解!」
俺たちは、
最も薄くなった方向へ踏み込んだ。
突っ切る。
追撃は来る。
すぐ後ろまで迫る。
だが、森の起伏が視界を切る。
一瞬、位置がズレる。
《神観測ストリーム》
[地形厨ヘカトン]『視界切れた』
[観測者アレス]『判断は正しい』
[慎重派の神]『ここ越えろ』
越えた。
走る。
止まらない。
足音は、しばらく続いた。
だが、次第に距離が開く。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『……逃げ切ったな』
[今日も暇な女神]『心臓に悪い』
止まったとき、
膝が少し笑っていた。
セラは無事だ。
俺も、生きている。
背後。
追撃は、もう来ない。
振り返った先。
木々の奥に、
一瞬だけ立つ影。
こちらを追わない。
ただ、状況を見ている。
次の瞬間、消えた。
《神観測ストリーム》
[観測者アレス]『追撃判断、切ったな』
[地形厨ヘカトン]『前線管理役、確定』
[慎重派の神]『深追いすれば被害が出る』
「……今の、見た?」
「ああ」
言葉はいらなかった。
名前も、正体も、今はどうでもいい。
分かったのは、一つ。
あそこは、調査の森じゃない。
逃げ切れた。
それだけで、十分すぎる。
今日は戻れない。
森で野宿になる。
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