第40話|開戦
森に入った瞬間、空気が変わった。
朝のはずなのに、光が薄い。
木々の影が重なり、距離感が狂う。
「……ここからですね」
セラの声は低い。
「ああ。合図が来る前に、こちらから動く」
二人は、決めた位置まで無言で進む。
足音を殺し、間隔を保つ。
《神観測ストリーム:ON》
[今日も暇な女神]『いよいよ本編』
[300年ROM専]『計画回の次は事故る』
[観測者アレス]『油断するな』
最初に見えたのは、囮の影だった。
昨日見た配置。
大柄な個体が二体、視界の抜けた場所に立っている。
「……想定通り」
ユウトが小さく言う。
セラが、一歩前に出る。
わざと、視線に入る位置。
一瞬の静止。
――カン。
一回。
合図。
「……来る」
左右の茂みが、同時に揺れた。
「三、四……いや、五!」
セラが数える。
「多いな」
だが、想定内だ。
ユウトは、右へ動く。
正面を避け、狭い地形へ誘導する。
《神観測ストリーム》
[地形厨ヘカトン]『いい誘導』
[今日も暇な女神]『作戦通り!』
最初の一体が踏み込む。
重い。
だが、速くはない。
《小回避》。
身体を滑らせ、斬る。
浅い。
だが、止まる。
セラが、間合いに入る。
二体目。
三体目。
「……っ」
想定より、早い。
隊列が、崩れない。
「賢いな」
ユウトが呟く。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『寄せが上手い』
[観測者アレス]『数で押す気だ』
そして――
音が鳴らなかった。
本来なら、二回目の合図が来るはずだ。
来ない。
代わりに、背後の気配。
「……後ろ!」
振り向いた瞬間、
別の一体が、すでに間合いに入っていた。
「――っ!」
剣で受ける。
衝撃が、腕を貫く。
《小回避》。
だが、距離が取れない。
「セラ!」
視界の端で、セラが囲まれているのが見える。
二体。
いや、三体。
「……数、増えてます!」
「見えてる!」
計画が、崩れた。
敵は、
こちらの誘導を読んでいた。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『作戦バレてる』
[300年ROM専]『向こう一枚上』
ユウトは、即座に判断を切り替える。
「分断する!」
声を張る。
「俺が前、セラは――」
言い切る前に、
斧が振り下ろされた。
受けきれない。
《小回避》。
身体が、地面を転がる。
土と木屑が、視界を塞ぐ。
立ち上がる前に、
別の影。
「……くそ」
呼吸が乱れる。
距離が、近すぎる。
セラの位置が、見えない。
《神観測ストリーム》
[慎重派の神]『一気にきつい』
[観測者アレス]『判断を急げ』
ユウトは、一体を捨てた。
斬らない。
止めない。
走る。
セラの方へ。
一瞬、背中が空く。
刃が、肩をかすめた。
痛み。
だが、止まらない。
「――セラ!」
声が、かすれる。
見えた。
木の根に足を取られ、
体勢を崩している。
間に、敵が二体。
「……行くぞ!」
踏み込む。
《小回避》。
一体の懐へ入り、
刃を深く入れる。
倒れる。
即座に、もう一体。
受ける。
押し返す。
セラが、立ち直る。
二人の距離が、戻る。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『合流成功』
[今日も暇な女神]『心臓止まるかと思った』
だが――
敵は、引かない。
さらに、奥から気配。
「……まだいる」
数は、読めない。
ユウトは、歯を食いしばる。
「……撤退ラインだ」
セラが、即座に頷く。
だが、
引けるかどうかは、別問題だった。
――カン。
遅れて、二回。
今さらだ。
意味は、一つ。
囲め。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『合図遅延』
[観測者アレス]『意図的だ』
ユウトは、剣を強く握る。
計画通りに始めた。
計画通りに、終わらない。
それでも――
生きて帰る。
それだけは、捨てない。
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