表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/26

第4話|神観測ストリーム起動

覚悟なんて、たいそうなものじゃなかった。


ただ、怖かっただけだ。


このまま何もせず、

異世界の草原で、誰にも知られず死ぬのが。


神がどうとか、配信がどうとか、

そんな理屈は後付けだ。


俺はただ――


生きたいと思った。


だから、視界の隅に浮かぶ表示から、目を逸らせなかった。


《神観測ストリーム》


未起動。


指先を伸ばせば、触れられそうな距離にある。


あれを起動すれば、神に見られる。

コメントが流れ、投げ銭が飛ぶかもしれない。


助かる保証はない。


神は言っていた。


致命的な介入は禁止。

結果操作も不可。


つまり――見られるだけだ。


「……それでも」


ひとりで死ぬよりは、マシか。


誰にも知られず、訳も分からず終わるより、

見られた上で足掻いた方が、まだ納得できる。


配信者として、八年間生きてきた。


なら。


ここでも同じだ。


俺は、意識の中で“ボタン”を押した。


 


視界が、歪んだ。


空気が一瞬だけ重くなり、

耳鳴りにも似た感覚が頭の奥を貫く。


次の瞬間、画面が割り込むように出現した。


《神観測ストリーム:ON》

同時視聴神数:3


「……っ」


視界の右端に、見覚えのある枠が開いた。


コメント欄。


配信ソフトとほとんど同じ位置、同じサイズ感。


ただし、そこに並ぶ文字は異質だった。


[初見の神]『ここ?』

[300年ROM専]『転生枠だな』

[観測者アレス]『あ、生きてる』


「…………は?」


声が、思わず裏返る。


誰かがいる。


しかも普通に、会話する気でいる。


「ちょ、待て待て待て」


視線を走らせるが、草原には俺と魔物しかいない。


なのに、文字だけが一方的に流れてくる。


[初見の神]『音聞こえる』

[300年ROM専]『視界OK』

[観測者アレス]『画質いいな今回』


「画質ってなんだよ……」


思わずツッコむと、コメントが一瞬止まり――


[初見の神]『喋った!?』

[観測者アレス]『意思疎通できるタイプか』

[300年ROM専]『当たり枠』


一気に流速が上がった。


「いやいやいや……」


頭が追いつかない。


神。


観測。


配信。


全部説明は聞いた。


理解もしていたはずだ。


だが、実際に“文字として見える”と話が違う。


視界に常駐するコメント欄は、異物感が強すぎた。


現実を侵食してくる。


「……これ、本当に配信なんだな」


呟いた瞬間。


[観測者アレス]『自己紹介いる?』

[初見の神]『名前は?』

[300年ROM専]『死亡理由は交通事故か』


「なんで知ってんだよ!」


反射で叫ぶ。


[300年ROM専]『ログ残ってる』

[初見の神]『アーカイブ見た』


最悪だ。


死んだ瞬間まで、見られていたらしい。


「……今はそれどころじゃねえ」


視線を魔物へ戻す。


赤い瞳が、こちらを睨んだまま動かない。


距離を測っている。


飛びかかるタイミングを。


「見えてるなら分かるだろ。あれ、やばい」


コメント欄が一拍遅れて反応した。


[観測者アレス]『あー、魔物だ』

[初見の神]『初期エリアにしてはデカくね?』

[300年ROM専]『まだ戦闘スキルないぞ』


「知ってるよ!」


魔物が、地面を蹴った。


一気に距離が縮まる。


身体が勝手に動いた。


横に跳ぶ。


牙が、さっきまで立っていた場所を薙いだ。


「っ……!」


心臓が跳ね上がる。


ギリギリだ。


本当に、あと少し遅れていたら終わっていた。


[初見の神]『今の回避よかった』

[観測者アレス]『反応速いな』


「褒めてる場合か!」


足が震える。


息が荒い。


それでも、コメントが視界にあるだけで、妙な冷静さが戻ってくる。


配信中と同じ感覚。


焦っているのに、頭のどこかが状況を整理している。


距離。

動き。

次の一手。


「……右、か」


独り言のつもりだった。


だが。


[300年ROM専]『右行け』

[初見の神]『同意』


「……マジかよ」


半信半疑で、右へ踏み込む。


直後、魔物の爪が空を切った。


「っ!」


紙一重。


心臓が痛いほど鳴る。


[観測者アレス]『当たり前だけど遅延ほぼゼロだな』

[初見の神]『配信環境良すぎ』


今はどうでもいい。


だが――


助かっている。


確実に。


ひとりだったら、今の判断はできなかった。


俺は歯を食いしばり、叫んだ。


「……いいか、聞け」


コメントが一瞬静まる。


「指示は一言で頼む! 今はそれしか見れねえ!」


数秒の沈黙。


次に流れた文字は、短かった。


[観測者アレス]『距離取れ』


その一言で、身体が動いた。


 


夜の草原で。


異世界で。


神に見られながら。


俺は、初めて理解した。


このスキルは、奇跡でも祝福でもない。


――生き様を晒す装置だ。


そして同時に。


この配信が、

俺を生かす可能性も秘めているのだと。

ここまで読んでいただきありがとうございます!



面白いと思っていただけたら、

★評価・感想・ブックマークで応援してもらえると励みになります。


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ