第39話|準備
夜の宿は、静かだった。
外は賑やかなはずなのに、
この部屋だけ、音が薄い。
ユウトは机に地図を広げ、
昼間に見た森の配置を、記憶だけでなぞっていた。
「……ここが、最初に見えた位置」
指先が止まる。
「ここに、三体以上。
で、こっちに――」
「回り込みですね」
セラが、自然に続きを言う。
「ああ」
二人とも、
もう“調査”の顔はしていなかった。
《神観測ストリーム:ON》
[今日も暇な女神]『作戦会議きた』
[300年ROM専]『この時間帯が一番好き』
[観測者アレス]『情報整理は重要』
「数は?」
「最低でも、五」
即答だった。
「多分、もっといる」
「……昨日見えたのは、前衛?」
「囮の可能性もある」
地図の端を指で叩く。
「ここ、視界が抜ける。
待ち伏せに使いやすい」
《神観測ストリーム》
[地形厨ヘカトン]『そこ嫌な地形』
[今日も暇な女神]『罠ポイント』
セラは、剣を膝に置いたまま聞く。
「正面から、行きますか」
「行かない」
迷いはない。
「正面は、向こうの土俵だ」
裏をかくか。
分断するか。
それとも――引きずり出すか。
「……引き寄せる?」
セラが言う。
「可能性はある」
ユウトは地図を折り、机に置いた。
「だが、失敗すると囲まれる」
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『リスク高め』
[慎重派の神]『でも一番手っ取り早い』
しばらく、沈黙。
考える音だけが、部屋に残る。
「……私」
セラが口を開く。
「前に出ます」
ユウトは、即座に首を振った。
「だめだ」
「分かってます。
でも、向こうは私を見てる」
確かに。
分断されたとき、
狙われたのはセラだった。
「……囮にするつもりはない」
「囮じゃないです」
セラは、少しだけ笑った。
「“分かってる駒”です」
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『強いこと言う』
[300年ROM専]『覚悟決まってる』
ユウトは、少しだけ目を伏せる。
「……やるなら」
顔を上げる。
「引き際を、先に決める」
「はい」
「合図が聞こえたら、即下がる」
「二回鳴ったら?」
「距離を取る」
「三回なら?」
「……その時は、俺が前に出る」
それ以上、言葉はいらなかった。
装備を確認する。
刃。
留め具。
紐。
すべて、問題なし。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『装備チェック助かる』
[300年ROM専]『フラグ確認ヨシ』
最後に、ユウトは言った。
「今回、派手な勝ちは狙わない」
「はい」
「目的は一つ。
――“崩せるか”を見る」
敵は、賢い。
なら、完勝は難しい。
でも、
綻びは作れる。
窓の外を見る。
夜の街は、変わらず平和だ。
「……向こうも」
セラが、ぽつりと言う。
「準備してますよね」
「ああ」
同時に思っていた。
あの音。
あの距離感。
偶然じゃない。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『向こうも会議してそう』
[今日も暇な女神]『敵側視点ください』
剣を鞘に収める。
「寝るぞ」
「はい」
灯りを落とす直前、
ユウトは一度だけ天井を見上げた。
神たちは、まだ騒いでいる。
だが――
明日は、静かじゃない。
準備は終わった。
作戦は、固まった。
次に踏み込むのは、
計画された戦闘だ。
それでも、
思い通りにいかないのが――
戦場という場所だった。
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