第37話|失われた線
空は晴れているのに、森は暗い。
昨日拾い上げた腕章と盾は、ギルドに預けてきた。
情報は共有されたが、結論は出ていない。
「……今日も、静かですね」
セラが言う。
「静かすぎる」
音がない。
鳥も、風も、遠い。
《神観測ストリーム:ON》
[今日も暇な女神]『無音BGM』
[300年ROM専]『こういう日は当たる』
[観測者アレス]『注意深く行け』
昨日引き返した地点を、さらに越える。
足跡は、はっきりしていた。
人のもの。
数は――四。
「……昨日のパーティ、確定ですね」
「隊列は崩れてる」
逃げた跡。
追われた跡。
そして――
戻った痕がない。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『帰ってない』
[今日も暇な女神]『はい確定』
少し進むと、地面の色が変わった。
踏み荒らされ、
血が染み込んでいる。
乾いているが、量が多い。
「……ここが、最初の接触点ですね」
「多分な」
問題は、その先だった。
戦闘痕は、一本道になっている。
散らばらず、
引きずられたように、奥へ。
「……逃げた、というより」
「運ばれてる」
《神観測ストリーム》
[慎重派の神]『嫌な表現』
[今日も暇な女神]『回収されてる感』
さらに奥。
見つかったのは、折れた槍。
刃の部分が、歪んでいる。
「……噛まれた?」
「違う。
挟まれて、折られてる」
力だけじゃない。
判断して壊している。
セラが、無意識に一歩下がる。
「……敵、考えてますよね」
「ああ」
知能がある。
群れで動く。
合図を使う。
オークより、厄介だ。
《神観測ストリーム》
[観測者アレス]『分類更新』
[300年ROM専]『脳筋じゃない』
そのとき――
遠くで、あの音。
――カン。
二回。
間隔、一定。
「……また」
「位置、変えてるな」
昨日より、近い。
見せている。
こちらを、測っている。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『完全に遊ばれてる』
[慎重派の神]『踏み込むと詰む』
ユウトは、地面にしゃがみ込んだ。
血痕の向き。
足跡の深さ。
引きずり跡の角度。
「……生存者がいる可能性は?」
セラが、小さく聞く。
ユウトは、即答しなかった。
数秒。
「……ゼロじゃない」
それだけ言う。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『言い切らない』
[観測者アレス]『まだ可能性を見るか』
「でも」
立ち上がる。
「救出前提で踏み込むのは、無理だ」
「……はい」
現実的な線引きだった。
ここは、調査の限界。
これ以上は――討伐の領域。
「一度戻る」
「了解です」
引き返す途中、
音は、もう鳴らなかった。
それが、逆に不安だった。
街に戻る。
ギルドの空気は、昨日より重い。
「……失踪、確定ですね」
受付が、静かに言う。
ユウトは頷いた。
「群れ行動。
知能あり。
合図使用。
戦闘後、回収行動あり」
短く、要点だけ。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『報告うま』
[300年ROM専]『冷静すぎる』
「……この依頼」
受付が言葉を選ぶ。
「調査の枠を越えます」
「分かってる」
即答だった。
「だから、ここまでにした」
夜。
宿の部屋。
セラが、ぽつりと言う。
「……助けられなかったですね」
「まだ、終わってない」
そう答えたが、
自分でも分かっている。
次は、戦う。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『覚悟回』
[観測者アレス]『線が引かれた』
調査は終わった。
線は、つながった。
残された選択肢は一つ。
――踏み込むか、
それとも、
別の誰かに任せるか。
ユウト・クロセは、
その答えを、もう決めかけていた。
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