第33話|逃げられない距離
森に入ってから、音が減った。
風の擦れる音も、鳥の気配も、遠い。
代わりに聞こえるのは、自分たちの足音だけだった。
《神観測ストリーム:ON》
[300年ROM専]『空気変わったな』
[観測者アレス]『ここ、嫌な間だ』
[地形厨ヘカトン]『左右狭い、逃げ道薄い』
《境界観測者》の反応は、薄く続いている。
昨日と似ている。
だが、同じではない。
「……なんかいやな雰囲気....」
セラの声が、自然と低くなる。
「分かってる」
歩幅を詰め、周囲を広く取る。
退路も頭に入っている。
[300年ROM専]『判断は冷えてる』
[慎重派の神]『ここで引いてもいい』
——問題ない。
そう判断した瞬間だった。
背後で、枝が折れた。
《神観測ストリーム》
[観測者アレス]『来た』
[地形厨ヘカトン]『後ろ早い』
[今日も暇な女神]『うわ、嫌なタイミング』
同時に、前方の茂みが破裂するように揺れた。
前に一体。
退路側に、二体。
数を認識した時点で、
逃げ道は成立していなかった。
[300年ROM専]『挟み』
[慎重派の神]『これは引けない』
[戦術屋ヘルメス]『戦闘確定』
ユウトは、視線だけで地形をなぞる。
木。
岩。
狭い。
横合いから、一体が踏み込んでくる。
重い斧。
《小回避》。
身体が反射で滑り、刃が空を切る。
[観測者アレス]『反応速度えぐい』
[戦術屋ヘルメス]『回避選択正解』
だが、その背後で――
「……っ」
セラの足が、地面の根に引っかかる。
ほんの一拍。
それだけで、距離が詰まった。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『まずい』
[慎重派の神]『間に合え』
[今日も暇な女神]『セラ!』
ユウトは迷わず踏み込んだ。
剣を振る。
受け止められる。
だが、押し返す。
《小回避》。
反撃をかわし、間合いをこじ開ける。
[観測者アレス]『前出る判断強い』
[戦術屋ヘルメス]『逃げ選択捨てたな』
位置をずらす。
木と岩の間へ。
三体が、同時に前に出られない。
[地形厨ヘカトン]『地形勝ち』
[300年ROM専]『ここは上手い』
一体目が踏み込む。
刃が交わる。
火花。
《小回避》。
胴へ、深く入る。
倒れる。
[観測者アレス]『一体処理』
[今日も暇な女神]『早い!』
息をつく暇はない。
斧が唸る。
《小回避》。
脚を斬る。
体勢が崩れたところへ、
セラの剣が正確に入る。
二体目、沈む。
[300年ROM専]『連携完成してる』
[慎重派の神]『でも余裕はない』
最後の一体が距離を取る。
ユウトは、追う。
疲労が腕に来ているのが分かる。
[戦術屋ヘルメス]『ここ決めないと長引く』
[観測者アレス]『踏み込み、今』
剣を振る。
浅い。
もう一度。
深く入った。
相手が崩れ、地面に沈む。
沈黙。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『……終わった』
[今日も暇な女神]『心臓に悪い』
[観測者アレス]『いい判断多かった』
数秒、剣を下げられなかった。
完全に動かないことを確認してから、
ようやく息を吐く。
「……全部、倒しました」
セラの声が、少し震えている。
[慎重派の神]『これは評価割れない』
[地形厨ヘカトン]『逃げ道なかった』
帰路。
森を抜けるまで、
コメントは少し静かだった。
夜。
宿の部屋。
剣を置いた瞬間、
腕の震えに気づく。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『神回ではない』
[観測者アレス]『だが、良い回だ』
[今日も暇な女神]『見応えあった』
挟まれて逃げれなかった。
それでも――
判断と剣が、間に合った。
神たちは、それを最後まで見届けていた。
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