第30話|コメントが割れる
朝の準備は、昨日と同じだった。
宿の食堂で軽く腹を満たし、装備を整える。
革の留め具を締め直し、剣の位置を確かめる。
身体の調子も悪くない。
「今日は、どうします?」
セラが、掲示板を見ながら聞いてくる。
「昨日と同じ系統でいい」
危険度は低~中。
内容は確認と巡回。
特別な理由はない。
積み上げるだけだ。
《神観測ストリーム:ON》
視界の端にUIが浮かぶ。
コメントは、いつもより少し多いが、騒がしくはない。
[300年ROM専]『今日も安定』
[観測者アレス]『判断が見える』
街を出る。
天気は安定している。
風も強くない。
森へ入ると、《境界観測者》が淡く反応する。
遠い。問題ない。
歩きながら、UIの端で言葉が交差しているのが見える。
[慎重派の神]『踏み込まない判断が続くな』
[現場主義の神]『それが戻れる理由だ』
[考察厨オルフェウス]『先日の撤退、どう評価する?』
意見が違う。
ただ、それだけだ。
「……どうかしました?」
セラが、ちらりとこちらを見る。
「いや」
短く返す。
足は止めない。
巡回は、予定通り進む。
痕跡を確認し、
新しい足跡がなければ、引き返す。
戦闘はない。
想定通りだ。
《神観測ストリーム》
[慎重派の神]『戦いに行かないのは物足りない』
[現場主義の神]『行ってないから配信が続いてる』
[300年ROM専]『喧嘩はしないでよーー』
評価が、分かれている。
だが、どれも“見方”の違いだ。
正解を決める話じゃない。
街へ戻る。
ギルドで報告。
異常なし。
帳簿に記され、それで終わり。
外に出ると、昼の喧騒が戻ってくる。
世界は、何も変わらない。
夜。
宿の部屋で装備を外し、椅子に腰を下ろす。
一息ついてから、UIを確認する。
コメントは、まだ続いている。
[慎重派の神]『次はもう少し見たい』
[現場主義の神]『同じ判断でいい』
[観測者アレス]『各自の基準で見ればいい』
収束もしない。
拡大もしない。
ただ、割れている。
「……好きに見てくれ」
小さく言って、UIを閉じる。
向こうがどう評価しようと、
明日やることは変わらない。
生きて帰る。
判断する。
それだけだ。
灯りを落とす。
配信は、
当人の知らないところで、コメントだけが少し割れていた。
だが――
ユウト・クロセの一日は、
今日も変わらず、静かに終わった。
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