第28話|正しい判断
街に戻ったのは、夜に差しかかる頃だった。
門番に軽く手を上げ、通り過ぎる。
血も、派手な戦利品もない。
外から見れば、いつも通りの帰還だ。
ギルドに入ると、昼間の喧騒は落ち着いていた。
報告待ちの列は短く、帳簿をめくる音が静かに響いている。
「依頼の報告を」
名を告げ、内容を伝える。
目撃地点。
街道から森に入った位置。
遭遇した魔物が、依頼書にあった“小型”ではなかったこと。
二足歩行で、武器を持っていたこと。
一体を排除し、残りは距離を保ったまま撤退したこと。
事実だけを、順に。
受付の手が、途中で止まった。
「……二足歩行、ですか」
「体格は、人より一回り大きい程度でした」
受付は一度頷き、奥に声をかける。
資料を抱えた職員が出てきて、地図を広げた。
短い確認。
低い声でのやり取り。
「この特徴だと……中型ですね」
職員が言う。
「オーク系統でしょう。
単独なら対処可能ですが、数が増えると危険度が上がります」
受付が、そのまま引き取った。
「依頼内容を修正します」
依頼書に、赤い印が押される。
《危険度:低〜中 → 中(暫定)》
「討伐不要の記載は維持しますが、
注意喚起を追加します。報告、助かりました」
それだけだった。
感謝も、評価もない。
だが、処理は確実だ。
「……終わり?」
セラが、小さく呟く。
「終わりだな」
拍子抜けするほど、あっさりしている。
ギルドを出ると、夜風が頬を撫でた。
「……もっと、何か言われるかと思いました」
「言われない方がいい」
歩きながら答える。
「騒がれると、
次も同じことを期待される」
セラは、少し考えてから頷いた。
「……確かに」
沈黙が落ちる。
重くはない。
今日の戦闘を、頭の中でなぞる。
情報が足りなかったこと。
数を誤ったこと。
正面から押し切れないと判断したこと。
深追いしなかったこと。
その結果、
依頼書の方が、あとから現実に合わせて書き換えられた。
《神観測ストリーム:ON》
[300年ROM専]『正しい報告』
[戦術屋ヘルメス]『判断が反映された』
「……さっきの判断」
セラが、ぽつりと言う。
「正しかったですよね」
確認するような声だった。
「正しかった」
即答する。
「勝ったかどうかは分からない」
一瞬、立ち止まる。
「でも、
次に来る人は、状況を知った上で判断できる」
セラは、少し目を見開いてから、
ゆっくりと頷いた。
「……はい」
それで、十分だった。
宿に戻る。
剣を置き、装備を外す。
身体に残った疲労が、ようやく表に出てくる。
「……強くなった感じは、あまりしませんね」
セラが言う。
「そうだな」
腰を下ろす。
「でも――」
少し考えて、続けた。
「迷う時間は、減ってきた」
《神観測ストリーム》
[観測者アレス]『成長の形』
[今日も暇な女神]『数字じゃないやつ』
派手な勝利も、称賛もない。
だが――
ユウト・クロセの判断は、
依頼書の危険度を一段階、現実に近づけた。
それが、この日の確かな結果だった。




