第27話|調査依頼
依頼書の内容は、ごくありふれたものだった。
《街道北・小型魔物の目撃報告》
《危険度:低〜中》
《討伐不要/追い払い》
報酬は高くない。
期限にも余裕があり、急ぐ理由はない。
目撃情報があるだけで、
数や種類についての記載はなかった。
「……これですね」
セラが、依頼書を指で押さえる。
「そうだな」
特別な点は見当たらない。
だが、断る理由もなかった。
夕方前に街を出る。
空はまだ明るく、街道にも人の気配が残っている。
荷をまとめる商人の背中を横目に、森へ入った。
《神観測ストリーム:ON》
[300年ROM専]『いつもの流れ』
[戦術屋ヘルメス]『情報少なめ』
森の中は静かだった。
風の音。
枝葉の擦れる音。
足元の土の感触。
《境界観測者》の反応は、弱い。
「……全然出てきませんね」
「目撃地点までは、まだ距離がある」
そう答えた直後だった。
反応が、わずかに強くなる。
――一瞬。
「止まって」
手を上げる。
セラが即座に足を止めた。
音がある。
枝が折れる音。
だが、軽くない。
「……小型、ではなさそうですね」
「ああ」
風向きが変わる。
獣臭。
しかも、ひとつじゃない。
「二……いや、三」
依頼書に書かれていた情報とは、合わない。
引き返す判断が、頭をよぎる。
だが、その瞬間、背後で別の気配が動いた。
「……挟まれたな」
退路が、塞がれている。
姿を現したのは、二足歩行の影だった。
大柄。
肩幅が広く、腕が異様に長い。
「……オーク」
セラが、息を呑む。
粗末な斧を持ち、
革鎧のようなものを身につけている。
さらに、奥で別の影が動く。
三体。
「情報、足りてねぇな」
小さく呟く。
《神観測ストリーム》
[今日も暇な女神]『思ったより多い』
[現場猫神カーン]『位置悪い』
オークが、低く唸った。
一体が前に出る。
「セラ、下がるな。
左右を見る」
「了解」
言葉は短く。
踏み込んできた。
速い。
図体に似合わない。
セラが受け止めるが、
衝撃で体勢が崩れる。
「っ……!」
「離れろ!」
叫ぶ。
刃が、肩口をかすめた。
浅いが、位置が悪い。
「……大丈夫です」
無理をしている。
「下がれ!」
俺が前に出る。
《小回避》が反射的に発動する。
斧を、紙一重でかわす。
地面が抉れた。
――重い。
一撃でも、もらえば終わる。
背後で、別の影が動く。
三体目。
「……想定より多い」
だが、考えている暇はない。
「セラ!」
短く、はっきり。
「右の個体、脚!」
「はい!」
刃が走る。
完全には切れない。
だが、動きが鈍る。
「今、距離取る!」
二人で横へ抜ける。
木の間を縫い、
視界を切る。
正面からは、押し切れない。
分断するしかない。
一体を木に引っかけ、
一体を岩陰に誘導する。
残った一体が、吼えた。
恐怖が、胸を叩く。
だが、足は止まらない。
「――今!」
セラが踏み込む。
斧が振り下ろされる。
《小回避》。
刃が地面に突き刺さる。
「そこ!」
セラの刃が、首元に入る。
倒れない。
だが、体勢が崩れた。
追撃。
二人で畳みかける。
数秒。
長く感じる沈黙。
やがて、巨体が地面に倒れた。
残りの個体は、距離を取ったまま動かない。
様子見だ。
「……引くぞ」
判断は、即。
深追いはしない。
二人で後退する。
森を抜け、街道へ戻る。
追撃がないことを確認して、足を止めた。
呼吸が荒い。
セラが、膝に手をつく。
「……書いてある情報だけじゃ、足りませんね」
「ああ」
短く答える。
《神観測ストリーム》
[300年ROM専]『帰る判断』
[戦術屋ヘルメス]『分断成功』
倒したのは、一体だけ。
全滅でも、圧勝でもない。
それでも――
二人とも、立っている。
「……さっきの判断」
セラが言う。
「間違ってなかったですよね」
「結果が答えだ」
それだけだった。
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