第22話|神、料理にうるさい
宿に戻ると、香ばしい匂いが漂っていた。
炙った肉の脂。
焼き立てのパン。
煮込みの湯気。
入口に立っただけで、腹が鳴る。
「……今日は外で食うか」
《神観測ストリーム:ON》
[課金は文化]『飯回だ!』
[今日も暇な女神]『神回確定』
「神回の使いどころ、間違ってるだろ」
初めての異世界での外食だ。
冒険者、商人、行商人。
昼の緊張を解いた人間たちが、酒と食事に群がっている。
セラと並んで空いた席に腰を下ろす。
「今日の……お祝い、ですよね?」
「称号の?」
「はい」
少しだけ照れたように笑う。
「生き残れた記念、です」
悪くない言い方だ。
だが、ふと値段表を見て眉をひそめる。
「……高くね?」
「高いですね」
即答だった。
[神界新人ミコト]『現実』
[今日も暇な女神]『外食あるある』
「よし、戻って作るか」
そう言うと、セラが目を瞬かせた。
「作る……って、宿屋で?」
「宿屋の食堂の厨房、借りられるらしい」
宿主に話を通すと、銀貨一枚で許可が出た。
材料は市場で調達。
干し肉、根菜、香草。
「……見たことない野菜ばっかだな」
《境界観測者》が反応する。
これは食える。
これは、やめとけ。
「能力の無駄遣いすぎる」
[戦術屋ヘルメス]『最高の使い方』
厨房に立つ。
包丁を握るのは、久しぶりだった。
「ユウトさん、料理できるんですね」
「一人暮らし長かったからな」
フライパンで油を熱し、肉を焼く。
香りが立つ。
「おお……」
[課金は文化]『飯テロ警報』
[今日も暇な女神]『神に匂いはないのに腹が減る』
野菜を刻み、煮込む。
味付けは勘。
……少しだけ、前世の感覚を思い出す。
配信終わりの深夜、
コンビニ飯に飽きて作った適当料理。
「懐かしいな」
「何がですか?」
「独りで食ってた頃」
セラは、少しだけ黙ってから言った。
「……今は独りじゃないですね」
「だな」
完成。
見た目は質素だが、湯気が立っている。
「いただきます」
二人で箸――ではなく、木製スプーンを取る。
「……おいしい」
セラが目を見開いた。
「ほんとだ」
「成功だな」
[神界新人ミコト]『うまそう』
[300年ROM専]『静かな回だ』
周囲の冒険者たちも、ちらちらとこちらを見る。
匂いにつられたのか、宿主が笑った。
「明日からも作るか?」
「気が向いたら」
食事を終え、腹が満ちる。
酒は飲まない。
酔って判断を鈍らせるほど、まだ余裕はない。
「……こういう時間、大事ですね」
セラがぽつりと言う。
「命の話をしなくていい時間」
「確かにな」
《神観測ストリーム》の流れも、穏やかだった。
煽りも指示もない。
ただの雑談。
異世界で、誰かと飯を食う。
それだけで、十分だった。
部屋に戻る前。
ふと、セラが言った。
「ユウトさんって……」
「ん?」
「誰かが聞いているみたいな話し方、しますよね」
「……何の話だ」
「何でもない、です」
笑ってごまかされた。
危ない。
鋭すぎる。
ただこういう時間も、
確かに“生きている時間”だった。
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