第21話|称号獲得
ギルドの奥にある事務室は、いつ来ても静かだった。
ギルドに戻った俺たちは、なぜかそのままここへ連れてこられていた。
掲示板前の喧騒とは別世界のように、
紙の擦れる音と羽根ペンの走る音だけが響いている。
「ユウト・クロセ、セラ・ミトラ」
名前を呼ばれ、二人で顔を上げた。
受付嬢ナディアが、珍しくこちらをじっと見ている。
「……何か問題でも?」
思わず身構えると、彼女は首を横に振った。
「いえ。むしろ逆です」
机の上に、二枚の冒険者証が置かれる。
淡く、光った。
《冒険者記録 更新》
文字が浮かび上がる。
「ここ数日、連続で依頼を成功させていますね」
「低難度ばかりですけど」
「それでも、です」
ナディアは淡々と告げる。
「失敗なし。負傷なし。期限超過なし」
……言われてみれば、すべて守っている。
「冒険者の多くは、どれかを落とします」
彼女はそう言って、木札を一枚差し出した。
《称号付与 通知》
《称号:生存者》
一瞬、意味が分からなかった。
「……称号?」
《神観測ストリーム:ON》
[今日も暇な女神]『きた!』
[戦術屋ヘルメス]『世界称号だ』
表示が続く。
《称号:生存者》
・一定期間、危険区域での依頼を失敗なく継続達成
・死亡率が高い冒険者帯での安定行動を評価
効果:
・致命傷回避時、行動硬直を軽減
・恐怖状態への耐性微増
「……地味だな」
思わず漏らす。
ナディアが即座に言い返した。
「生き残ること以上に、冒険者に必要な才能はありません」
正論だった。
セラが、少し目を輝かせる。
「すごいですね……正式な称号って」
「いや、派手さはない」
「でも、ユウトさんらしいです」
……褒めてるのか、それ。
[300年ROM専]『生存は最上位スキル』
[観測者アレス]『軽視するな』
称号は、数値を大きく上げるものじゃない。
だが、確実に“死ににくくなる”。
世界が俺を、少しだけ信用した証だった。
「ちなみに」
ナディアが事務的に続ける。
「この称号は、冒険者全体の上位三割未満しか所持していません」
「……え?」
「大半は、最初で無茶をしますから」
納得しかなかった。
「今後も、同様の働きを続ければ、上位称号へ派生します」
上位。
その言葉に、少しだけ現実味が生まれる。
「無理はしない」
そう告げると、ナディアはわずかに微笑んだ。
「それが一番、珍しい方針です」
ギルドを出る。
夕焼けは穏やかで、街はいつも通りだった。
何かが劇的に変わったわけじゃない。
魔物が減ったわけでも、歓声が上がったわけでもない。
それでも――
「世界に名前を覚えられた感じがします」
セラがそう言った。
「気のせいじゃない」
冒険者証を握る。
数字でも、運でも、ガチャでもない。
積み重ねが、形になった。
《神観測ストリーム》のコメントが流れる。
[神界新人ミコト]『努力が報われる回』
[今日も暇な女神]『好き』
異世界で生きるということは、
派手に勝つことじゃない。
――死なずに、明日へ行くことだ。
ユウト・クロセは、
冒険者としての“最初の称号”を手に入れた。
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