第20話|マンネリ配信
ギルドの掲示板の前は、今日も人で埋まっていた。
依頼書が貼られ、剥がされ、また貼り替えられる。
それを眺めながら、俺は無意識に肩の力を抜いていた。
「……この光景にも、慣れたな」
異世界に来て、しばらく。
あのゴブリンリーダー戦――
神界で“神回”と呼ばれた出来事は、もう先日の話だ。
街では今も噂に残っているが、
誰もがそれを口にするほど新鮮ではない。
英雄扱いもない。
ただ――
「少し名前を覚えられた新人」
その程度の立ち位置だった。
「今日はどうしますか?」
隣で、セラが依頼書を覗き込む。
「昨日と同じ感じでいいと思います。無理のないやつ」
「賛成」
俺は一枚剥がした。
《街道南・害獣駆除/危険度:低》
「まずはこれ」
《神観測ストリーム:ON》
[戦術屋ヘルメス]『堅実』
[今日も暇な女神]『安定志向』
神回以降、コメントの温度も落ち着いた。
騒ぎたい神は去り、
残ったのは、見守る連中ばかりだ。
……正直、助かっている。
森へ入る。
セラが前、俺が後ろ。
役割は自然に決まった。
「来るぞ、構えろ」
草が揺れ、小型の魔獣が飛び出す。
セラが踏み込み、斬る。
俺は周囲を見る。
終わり。
たったそれだけ。
[観測者アレス]『無駄がない』
[300年ROM専]『日常だな』
報告を済ませ、二件目。
倉庫警備。
何も起きない。
三件目。
薬草採取。
危険域を《境界観測者》が淡く知らせる。
「この先、避けよう」
「了解です」
説明はいらない。
少し遠回りするだけで、面倒な魔物とは遭遇せずに済んだ。
「……便利な感覚ですね」
「派手じゃないけどな」
「でも、生き残れます」
その言葉が、妙に重かった。
神回以降、俺は何度も考えた。
あの戦いは――
実力じゃない。
判断と運と、ほんの少しの奇跡だ。
同じことをもう一度やれと言われても、無理だろう。
だから今は、これでいい。
派手じゃなくていい。
強くなくてもいい。
「ちゃんと帰れる仕事を続ける」
それが、今の最適解だった。
日が傾き、依頼を三件終える。
銀貨が、少しずつ増えていく。
「……冒険者って、こういう仕事なんですね」
セラが言う。
「神話じゃなくて、生活だ」
「はい」
少し笑って、彼女は頷いた。
街へ戻る途中、数人の冒険者とすれ違う。
視線を向けられることはある。
だが、立ち止まられることはない。
神回は“伝説”になりつつある。
今はもう――
俺たちは、ただの冒険者パーティだ。
《神観測ストリーム》のコメントが流れる。
[神界新人ミコト]『落ち着いてきましたね』
[今日も暇な女神]『長期連載マンネリ感』
「マンネリって言うな」
そう言いながらも、否定しなかった。
異世界での生活は、ようやく“回り始めた”。
派手な事件はない。
だが――
生きるための一日としては、
これ以上なく、正しかった。
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