第18話|初見さんが現れた
街の外れにある訓練場は、昼でも騒がしかった。
木剣のぶつかる音。
掛け声。
土を蹴る足音。
冒険者見習いたちが、汗を流している。
「……ここ、初心者多いな」
《神観測ストリーム:ON》
[今日も暇な女神]『青春だ』
[神界新人ミコト]『頑張ってますね……!』
昨日手に入れた称号の感覚を確かめるため、
俺は街外周の訓練場まで足を伸ばしていた。
《境界観測者》。
効果は地味だが、発動は常時。
視界の端に、うっすらと色の違う線が見える。
――ここから先は危険。
そんな曖昧な感覚が、輪郭を持っている。
「……便利すぎるだろ」
[戦術屋ヘルメス]『危険察知上位互換』
[考察厨オルフェウス]『索敵補助と相性がいい』
訓練場の一角。
人が集まっている場所があった。
木剣を持った少女が、一人で何人もの相手を捌いている。
動きは派手じゃない。
だが、無駄がない。
「……うまいな」
[今日も暇な女神]『ヒロインレーダー反応』
「やめろ」
少女が最後の一人を転ばせ、息を整える。
淡い金髪。
革の軽装。
年は、俺より少し下だろう。
周囲から拍手が起きる。
「もう一回お願いします!」
誰かが言った瞬間。
少女は、こちらを見た。
正確には――俺の背後。
「……え?」
振り返る。
誰もいない。
再び少女を見ると、今度は俺を見ていた。
まっすぐ。
迷いなく。
「……あの」
声をかけられる。
「さっきから、一人で喋ってませんか?」
「……」
あ。やばい。
《神観測ストリーム:ON》
完全に独り言配信中だった。
[神界新人ミコト]『バレた』
[今日も暇な女神]『不審者』
「いや、これは……」
言い訳を探すが、思いつかない。
少女は、少し困ったように首をかしげた。
「誰か、そこにいるんですか?」
――鋭い。
適当に誤魔化すか、一瞬迷う。
「……聞こえた?」
「はい」
即答だった。
「声は聞こえません。でも……話しかけている“間”がある」
コメントにいるだろ....観測者かよ。
[観測者アレス]『感覚派だな』
「……名前、セラって言います」
少女はそう名乗り、軽く頭を下げた。
「冒険者見習いです」
「ユウト。こっち来てまだ日が浅い」
短く答える。
セラは、俺の腰の剣と装備を一瞥した。
「……昨日、ギルドで噂になってました」
嫌な予感。
「ゴブリンリーダーを一人で倒したって」
「半分以上、誤情報だ」
即否定する。
「実際は逃げ回って、運が良かっただけ」
セラは少し目を見開き、それから――笑った。
「それ、正直ですね」
「褒めてないだろ」
「褒めてます」
即答だった。
「強い人ほど、そういう言い方しませんから」
妙にまっすぐな評価に、言葉を失う。
[神界新人ミコト]『好感度上昇音』
[今日も暇な女神]『ヒロイン確定』
「で……その」
セラが、少し言いづらそうに続ける。
「もしよければ、一緒に依頼……どうですか?」
パーティの誘い。
まだ組む気はなかった。
だが――
《境界観測者》が、淡く反応する。
彼女の周囲に、危険色はない。
「……一度だけな」
そう答えると、セラはぱっと顔を明るくした。
「ありがとうございます!」
訓練場の喧騒の中。
こうして、最初の仲間と出会った。
神に見られながら。
誰にも見えない配信を続けながら。
ユウト・クロセの物語に、
“初見さん”が加わった。
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