第16話|日常配信回
陽はまだ高いが、街の空気が少し柔らいできた。
昼の喧騒が落ち着き、商人たちの呼び声もどこか緩い。
《神観測ストリーム:ON》
[今日も暇な女神]『平和だ』
[神界新人ミコト]『戦わないんですか?』
「今日は戦わない」
即答する。
「昨日の今日で命張るほど、俺は馬鹿じゃない」
[煽り好きバアル]『えー』
[現場猫神カーン]『正解』
装備屋を出て、新しい革防具を肩にかける。
派手さはないが、軽くて動きやすい。
「今の俺は、こういうのが正解」
[戦術屋ヘルメス]『軽装◎』
[考察厨オルフェウス]『機動力優先だな』
通りを歩く。
露店が並び、香辛料の匂いが漂う。
焼いた肉。
甘い果実。
湯気の立つスープ。
[課金は文化]『飯テロ』
[300年ROM専]『腹減った』
「神も腹減るのかよ」
屋台で串焼きを買い、かじる。
塩気が強い。
だが、不思議と旨い。
「……うま」
[神界新人ミコト]『顔緩んでます』
[今日も暇な女神]『いい顔』
歩きながら、街を映す。
石造りの家。
子供たちの笑い声。
洗濯物が風に揺れている。
魔王も神も関係ない、ただの生活。
「こういうとこ見てるとさ」
ぽつりと呟く。
「本当に異世界なんだなって思う」
コメント欄が、少し静かになる。
[観測者アレス]『守る側の顔になってるな』
「大げさだ」
そう言いながらも、否定はしなかった。
ふと、広場の一角で人だかりができているのが見えた。
近づくと、即席の演奏会らしい。
弦楽器の音色が、夕風に溶けていく。
立ち止まり、耳を傾ける。
[神界新人ミコト]『綺麗……』
[300年ROM専]『悪くない』
音楽が終わり、拍手が起こる。
小さな投げ銭――いや、硬貨が投げられる。
「……あ」
思わず笑った。
「どこの世界も、投げる文化あるんだな」
[課金は文化]『我々の祖』
宿へ戻る道。
空は橙色に染まり始めていた。
「今日はこの辺で終わるか」
[今日も暇な女神]『もう?』
[戦術屋ヘルメス]『早めだなー』
「明日からまた依頼だ」
深呼吸する。
命のやり取りは怖い。
それでも、こうして生きている時間があるから、続けられる。
「じゃ、配信切るぞ」
そう言って、ふと手を止めた。
……切る、必要あるか?
《神観測ストリーム》は、ONとOFFができる。
だが、今日一日。
切ろうと思った瞬間は、一度もなかった。
「……ま、いっか」
《神観測ストリーム:ON 継続》
[神界新人ミコト]『!?』
[今日も暇な女神]『切らない宣言』
「生活配信ってことで」
笑って宿の扉を開ける。
異世界五日目、夕暮れ。
戦わない一日の配信もいいものだった。
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