表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/25

第15話|コメント口喧嘩

街の通りが、少し騒がしくなってきた。


朝の配信を始めてから、まだ半日も経っていない。

太陽は高く、影は短いままだ。


《神観測ストリーム:ON》


視界の端で、コメント欄が止まる気配を見せなかった。


[戦術屋ヘルメス]『武器屋』

[考察厨オルフェウス]『防具優先』

[現場猫神カーン]『金足りない』


「全員同時に言うな」


歩きながら言うと、すぐ別の声が割り込む。


[煽り好きバアル]『細けぇ!』

[今日も暇な女神]『まあまあ』

[神界新人ミコト]『どっち行くんですか?』


「……ほら」


昨日より人は増えたが、秩序は減っている。


賑やかと騒音の境界線。

今は、完全に後者だった。


装備屋の前で足を止める。


「とりあえず、覗くだけな」


その一言が、引き金だった。


[戦術屋ヘルメス]『短剣』

[考察厨オルフェウス]『いや剣種相性が——』

[戦術屋ヘルメス]『長い』

[考察厨オルフェウス]『説明が必要だ』


「もう始まってるな……」


文字が重なり、視界を埋めていく。


助言。

反論。

否定。


いつの間にか、話題は装備から人格へとずれていた。


[戦術屋ヘルメス]『だから言ってる』

[考察厨オルフェウス]『理解不足だ』


心臓が、嫌な速さで脈打つ。


――これ、戦闘中なら死んでる。


情報が多すぎる。


判断が、遅れる。


「一回、配信を止める」


その声は、意外なほど静かだった。


だが。


[煽り好きバアル]『逃げんなよ』


ぴたりと足が止まる。


「……逃げじゃない」


ゆっくり息を吸い、吐く。


「今のは、邪魔だ」


コメント欄がざわついた。


[今日も暇な女神]『あ』

[神界新人ミコト]『空気変わった』


「意見が割れるのはいい」


視線は前を向いたまま。


「でも、今のは“俺の判断”を奪ってる」


一拍。


「誰が正しいかじゃない。

 ここで決めるのは――俺だ」


沈黙。


ほんの数秒だが、やけに長い。


[観測者アレス]『……その通りだ』

[300年ROM専]『視聴者は責任を取らない』


胸の奥に、冷えていたものがほどけた。


「助言は歓迎する」


続ける。


「でも、喧嘩は聞かない。

 神同士で殴り合うなら、配信外でやれ」


[煽り好きバアル]『……悪かった』


思いがけない謝罪だった。


「次やったら、即ミュートする」


即座に反応が返る。


[課金は文化]『配信者の顔してきた』

[今日も暇な女神]『線引き大事』


俺は苦笑した。


「命かけてんだ。

 空気悪くして死にたくない」


それだけだ。


装備屋の扉を開ける。


金属の匂いと、静けさ。


「改めて聞く」


棚を見ながら言う。


「今の俺に必要なの、どれだ?」


少しの間。


それから、短い言葉だけが流れた。


[戦術屋ヘルメス]『軽』

[考察厨オルフェウス]『耐』

[現場猫神カーン]『生存』


三つとも、同じ方向を向いている。


「……よし」


俺はうなずいた。


「その意見だけ、もらう」


線は引いた。


だが、切ったわけじゃない。


配信はまだ続いている。


見られることは力じゃない。


判断を手放さない覚悟こそが、

この世界の配信者が生き延びるための武器だった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


面白いと思っていただけたら、

★評価・感想・ブックマークで応援してもらえると励みになります。


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ