第14話|新規視聴者増加
朝の配信は、静かに始まった。
……始まったはずだった。
《神観測ストリーム:ON》
画面が開いた瞬間、コメント欄が一気に埋まる。
[神界新人ミコト]『おはようございます!』
[課金は文化]『今日も投げる準備OK』
[今日も暇な女神]『寝起き顔いいね』
「おはようって言う前に来るな」
昨日決めた配信ルールは、どうやら機能している。
流速は速いが、無秩序ではない。
……問題は、その“量”だった。
[戦術屋ヘルメス]『今日は装備更新だな』
[考察厨オルフェウス]『昨日の戦闘ログを整理すると――』
[現場猫神カーン]『その剣、折れそう』
「知らん神増えてね?」
思わず口に出た。
昨日までは、見覚えのあるコテハンが中心だった。
観測者アレス。
300年ROM専。
今日も暇な女神。
それが今や、知らない名前が半分以上を占めている。
[観測者アレス]『昨日の神回で流入した』
[300年ROM専]『固定化が始まったな』
「固定化って、配信者用語使うな」
神なのに。
いや、神だからこそ暇なのかもしれない。
コメント欄では、すでに軽い言い争いが始まっていた。
[考察厨オルフェウス]『この世界の魔物は索敵半径が──』
[戦術屋ヘルメス]『長い。三文字で』
[考察厨オルフェウス]『……右』
「従うんだ」
神同士で。
[煽り好きバアル]『今日も戦えよ!』
[現場猫神カーン]『やめとけ死ぬ』
[煽り好きバアル]『ノリ悪っ』
「喧嘩すんな」
言った瞬間、ぴたりと止まる。
数秒後。
[今日も暇な女神]『配信やめないで......』
[神界新人ミコト]『静かにします……』
妙に素直だ。
「……なんで神のコメント欄を俺が管理してんだよ」
だが、不思議と嫌じゃなかった。
前世の配信を思い出す。
常連が生まれ、
空気ができ、
内輪ノリが始まる。
それは配信者にとって、
“数字よりも重いもの”だった。
「いいか、一応言っとく」
歩きながら、口にする。
「名前つけて喋ってる以上、ここは“個人”だ」
神でも、視聴者でも。
「だから、誰が何言ったかは覚える」
コメントが、一瞬だけ止まった。
[観測者アレス]『……』
[300年ROM専]『それ言われると重い』
「いい意味でな」
すぐに続ける。
「有益なのも、うるさいのも、面白いのも。全部含めて配信だ」
[課金は文化]『じゃあ投げるね』
《投げ銭ポイント:+10》
「今の流れで投げるな」
笑いが、コメント欄に走る。
[今日も暇な女神]『なんか落ち着いた』
[神界新人ミコト]『居場所できた感じ』
居場所。
その言葉が、少し胸に残った。
神は暇つぶしで見ている。
そう言っていた。
でも今は、ただの観測じゃない。
話し、笑い、喧嘩し、戻ってくる。
それはもう――視聴者だ。
「さてと、装備屋でも行くか。今日は街で準備回。戦闘は――しない予定だ」
[煽り好きバアル]『えー』
[現場猫神カーン]『安全第一』
「意見割れるな」
[観測者アレス]『どちらも正しい』
静かに息を吐く。
昨日まで、俺は一人だった。
だが今は違う。
見られている。
話しかけられている。
名前を呼んで、返事が返ってくる。
それは力じゃない。
奇跡でもない。
ただ――責任だった。
「配信者、異世界五日目」
そう呟く。
「今日も、生き延びるぞ」
コメント欄が、ゆっくりと流れ出した。
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