第12話|初バズ
朝だった。
石畳の冷たさで目が覚める。
「……身体、痛ぇ」
全身が軋むように重い。
昨日の戦闘が、夢じゃなかったことをはっきり主張していた。
それでも、致命的な怪我はない。
小回避が拾った命だ。
ゆっくりと上体を起こすと、見慣れた天井があった。
……いや、見慣れてはいない。
木造の宿屋の天井。
いつの間にか、宿に運び込まれていたらしい。
「……誰が?」
疑問が浮かんだ瞬間、視界の端が光った。
《神観測ストリーム:ON》
[初見の神]『おは』
[観測者アレス]『生きてて草』
「おはじゃねえよ……」
声を出すだけで、喉が痛い。
ベッドの横には、包帯と薬草の匂い。
どうやら最低限の治療は受けたらしい。
「……街に着いたあと、覚えてねえな」
倒れたのだろう。
命を削りすぎた。
ベッドから降りると、脚はまだ少しふらついたが、歩けないほどじゃない。
宿屋の一階へ降りる。
朝食の匂いと、ざわめき。
その中に――やけに視線が混じっていた。
「……?」
数人の冒険者が、こちらを見ている。
ひそひそ声。
「昨日の……」
「ゴブリンリーダー……」
「一人で……?」
聞こえないふりをして席につく。
[初見の神]『もう噂回ってる』
[観測者アレス]『街狭い』
確かに、街道付近での騒ぎは大きかった。
衛兵も出動していたし、隠しようがない。
朝食のパンをかじっていると、扉が開いた。
冒険者ギルドの受付嬢――赤髪のナディアが入ってくる。
「……ユウト・クロセだな」
名指しだった。
周囲の視線が一斉に集まる。
「昨日の件、話を聞かせてもらう」
ギルドに連れていかれ、簡易の事情聴取。
討伐報告。
発生場所。
時間帯。
話しているうち、ナディアは何度も眉をひそめた。
「本来、あの時間帯にリーダーが出ることはない」
「じゃあ、想定外?」
「完全に」
そう言い切られた。
「新人が当たる相手じゃない。生きているだけで奇跡だ」
奇跡。
その言葉に、胸が少し冷えた。
神回。
奇跡。
どちらも、俺の意思とは関係ない。
[観測者アレス]『異世界側の反応いいな』
ナディアは一枚の木札を差し出した。
「臨時報酬だ。正式討伐ではないが、功績として処理する」
中身は、銀貨数枚。
初めて手にする、この世界の金だった。
「……ありがとうございます」
「礼を言われるようなことじゃない」
彼女は真剣な目で続けた。
「次からは、無茶をするな」
言葉の重みが違った。
怒りではなく、本気の忠告。
ギルドを出ると、街の空気が少し違って見えた。
視線。
噂。
期待と警戒が混じったもの。
一夜で、立場が変わった。
そして――
視界の中央に、新しい表示が浮かび上がった。
同時視聴神数:12,487
昨夜から、減っていない。
むしろ、微増している。
「……固定客ついたな、これ」
[初見の神]『切り抜き回ってる』
[観測者アレス]『神界掲示板荒れてる』
「何それ怖い」
笑えない。
だが、数字は現実だった。
見られている。
期待されている。
次を待たれている。
それは前世で、何より重かったものだ。
なのに。
今は、不思議と悪くなかった。
「……今日の配信、何しよっかな」
ふと、そんな言葉が口をつく。
死ぬ直前と、同じ思考。
違うのは――
今度は本当に、異世界にいるということだけだ。
空を見上げる。
二つの月は、昼の光に溶けて見えない。
それでも、確かにそこにある。
神に見られながら。
異世界で生きながら。
俺の配信は、まだ始まったばかりだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
面白いと思っていただけたら、
★評価・感想・ブックマークで応援してもらえると励みになります。
次回もよろしくお願いします!




